えぴそーど3 ページ3
そのスキを逃さず不安定な車内で小柄な男に全力で詰め寄る。
首元を狙った、左からの凪ぎ払いは──しかし、相手のナイフによっていなされる。
「おやぁ、実践慣れしていないようなんだな。腕がプルプル震えてるんだな!」
アストはきっと、知らなかっただろう。
リーチの短いナイフは懐に入られると対処できなくなる、ということを。
「もらったんだなッ!!」
打ち合うこと数度、手は痺れ疲弊し、やがて腕の振りも鈍くなってくる。普段の修練不足が体力という根本的な面で祟った典型的な例だ。
アストはナイフの間合いに侵入を許してしまう。
逆手で持たれたナイフは綺麗な軌道を描き──アストの胸に、深々と突き刺さる。
噴水が如く噴出される血液の量は、やがて死に至るであろうほど大量だった。
「ゴ───フッ!!!」
口から吹き出る血は車内を紅く汚し、大柄な男の血液と混じって黒く染まる。
アストは己の胸を見下ろし、ドクドクと流れる鮮血を見て思わず意識を失いそうになる。
その瞬間、今まで意識してこなかった猛烈な痛みが彼を襲う。焼けるように痛い胸は未だ脈を打ち続けるが余計出血をするだけだし、腹の奥から競り上がる吐き気の悪寒は留まることを知らない。
「キャーー!!」
彼女の甲高い叫び声が狭い馬車内で木霊する。
「ヒヒッ、手間かけさせやがってよぉ。ああ、安心しろ、お前はまだ殺さない。そこの嬢ちゃんが無惨に慰み者になるのをじっくり観察させてから...殺してやるんだな」
「...ゴフッ......こ、の...下衆野郎、が」
「ハッ、なんとでも言うんだな。歴史は勝者が作るのが世の定め。敗者は黙って指を加えてるんだな」
「やめてっ!近づかないで!!こっちに来ないでー!アストーー!!助けてッ!!」
朦朧とする意識をなんとか繋ぎ止め、これ以上言うことの聞かない腕を持ち上げる。
彼女は馬乗りになられ服は破かれ、瑞々しい胸の果実が男によって蹂躙されて行く。
「ぁぁぁぁぁ...」
怒号は声に出ず、掠れた呻き声に変換される。
厭らしい触手は遂に下半身に伸ばされ───
小柄な男が、馬車の壁を突き破り外に飛び出た。
「......ぇ?」
アストとシャーレの疑問の声が重なる。恐る恐る、その現象を起こした場所を目で追う。
そこには漆黒を思わせる黒髪を中途半端に伸ばした、少年とおぼしき人物がいた。少女のような童顔で、幼い印象を受けた。
少年はシャーレの方を向くと、
「助けに来た」
と、ぶっきらぼうに吐き捨てるのだった。
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