えぴそーど１ ページ1
一目惚れ、だったのかもしれない。
気がつけば僕は彼女のことを目で追っていた。とても可憐で、まるで野山に咲く一輪の花のような彼女のことを。
幸運なことに、その彼女は僕の許嫁だ。
......そう、許嫁な、はずなんだ。
▼▲
「盗賊でございます坊っちゃま！外へ出てはなりませんぞ！ここは冒険者に任せなされ！！」
「ええそうです。任せてください、報酬の分はしっかり働きますよ」
冒険者の中で、リーダー格の男性が励ますように声を掛けてくれた。それはどこまでも気負いがなく、彼らがプロであることを再確認させられる。
僕の隣には怯えて震えるシャーレの姿がある。ここで僕まで弱気な態度を見せたら、きっと彼女は幻滅するだろう。
だから極めて冷静に、落ち着いて返事をする。
「お願いします。──お気をつけて」
「はい！」
そして、広々とした馬車の中には、僕とシャーレが残った。
つい先程まであんなに賑やかだったのに、と思わず物事をマイナスの方向へ考えてしまう。
「────交渉決裂、ってとこでいいんだな？護衛さんよぉ」
「この家の財産は全て彼らの物だ。貴様らのような低俗の輩の手に渡ってみろ。ろくなことに使わないだろう？」
「ハ、ごもっともだ。酒、肉、女さえあれば俺達ぁ生きていけるからなぁ！」
「それは種族に関わらず、誰でも生活可能だ────ろ！」
剣と剣の交わる金属音が、肉を切ったとき特有の鈍い切断音が、人間が生を手放すその直前の金切り声が。
響く、轟く、染め上げる。
あんなにものどかに思えた草原は、一瞬にして血で血を洗う戦に変わり、談笑は悲鳴と咆哮に塗り変わる。
どうして僕達が、そう思わずにはいられない。あと数キロで我が家に着くというのに───
「ガァァァ！！」
さっき、僕らに話しかけてくれた冒険者と思わしき叫び声。それと同時に馬車へと駆け込む靴の音。
「お前らぁ！馬車に乗り込めぇっ！！食料は根こそぎ奪え！女は壊れるまで凌辱しろ！あとは──好きに殺せェッッッ！！！」
この場所に辿り着くのも、おそらく時間の問題。ほんの数秒といったところか。
「嫌っ！アストぉ、助けてぇ！」
怯えきった声で僕の名前を呼び助けを乞う彼女はどこまでも弱々しく、
「大丈夫！！僕がアイツらを倒して必ず助けるから！！」
そう言わずにはいられなかった。
そして数秒後、僕らのいる部屋に粗雑な格好をした男が数人侵入してくる。
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