第五十九話【私の居場所】 ページ39
数十分後......
私は探偵社の扉の前に立っていた。事務所の中から、皆んなの声が外へ漏れていた。何故だか何年ぶりかにこの場所へ訪れたような気持ちになっていた。ただ、それがいつも通りであるという懐かしさが込み上げた。私は少し深呼吸をしてからドアノブを握った。
「ただいま戻りました」
私はその声と共に扉を開けた。皆んなは話し込んでいた所を中断し、扉の方へと振り向いた。そして、私と皆んなの視線が合った。その一瞬の間の後......
「あっ! Aさん。おかえりなさい!」
「良かったー、何事もなくて」
皆んなは心配したように駆け寄って来た。
「えぇ皆さん、お騒がせしました」
皆んなの反応を見て、私の心の中は安心感で満たされていた。ただひたすらに、良かったと。矢張り、この元の世界へ戻ってこれたのだ。今の私が存在できるこの世界に。
「やっぱり、Aはこっちじゃないとな」
その国木田の言葉にうんうんと周りが頷いた。
「えっと......向こうの私が何かしましたか?」
私が皆んなにそう訊くと、ピクリと肩を跳ねさせ、ほぼ全員が目を逸らした。
(一体、向こうの私は何をしたの......?)
私が訳を訊こうとした時、
「たっだいまー!」
事務所の入り口から元気な声が聞こえ、目を向けると、入り口に乱歩と与謝野が立っていた。
「ほら与謝野先生言った通りだろう?もう戻ってくる頃だって」
「ふふっ、やっぱり乱歩さんは凄いね」
私は乱歩の元へ近づいた。
「乱歩お兄様、ただいま戻りました」
私がそのように言うと、
「お帰り、A」
乱歩は無邪気な笑みを浮かべながら云った。
すると、事務所の中が騒がしくなった事に気がついたのか、社長室から福沢が出てきた。そして、私の元に近づいた。
「福沢様」
何を言われるのか、内心緊張が走っていたが、福沢はただ一言云った。
「A、よく戻ってきた」
福沢はそう言って、私の頭に手を置いた。私はそれを聞くと、不思議と胸の中がじんわりと暖かくなった。そして、皆んなに気づかれないように薄らと目に涙を浮かべていた。ただ、必要とされることが嬉しかった。誰の代わりでもない。私の居場所は探偵社だ。
「皆、聞け」
福沢の一声が掛かり、私達は背筋を正した。
「今日はご苦労であった。ただもう遅い時間だ。今日の事はまた明日まとめるように。いいな?」
「はい!」
皆んなの声が一つに揃った。
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作者名:トキハル | 作成日時:2019年11月17日 14時