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第五十七話【予知と現実】 ページ37

「俺に何か用か?」


織田が私に訊いた。


しかし、私はすぐにはその問いに答えられなかった。ただ、目をパチリとさせながら、織田に顔を向けていた。


(何故此処に織田さんが......?)


あの男を生き返らせた後、私は外へ移動し、入れ替わりの異能を使った。そして、次に目を開けた時、何故か目の前に織田が立っていた。


「どうかしたのか?」


黙ったままの私を見て、織田が再度尋ねた。


「......いいえ。なんでもありません」


私は短く答えた。


入れ替わりは、その時私達が立っていた場所同士で行われる。つまり、私が此処にいるという事は、向こうの世界の私が彼を呼び止めたんだろう。


「これからどちらに行かれるんですか?」


私でなくても、呼び止めてしまったのなら申し訳ない。そう思って、私は織田に訊いた。


「あぁ、いつものバーにな。秋田も来るか?」


「いえ、まだ今日の後処理が残っていますので」


「後処理......そうか。今日は麻薬組織の占拠だったか......それでうまくいったか?」


「えぇ、多少問題はありましたが、何とかなりました」


「流石、秋田だな」


「いえ......私だけの力ではありません」


実際に私は、向こうの世界に飛ばされて、こちらの問題には一切関与していない。そのため、早急にこちらの事態の把握もしなければいけない。やるべき事が山積みだ。そう思うと私は心の中で溜息をついた。


「幹部補佐も大変だな」


「えぇ、楽な仕事じゃないですよ」


私は諦めたように小さく笑った。


「では、私は失礼します。呼び止めてしまってすみません」


「あぁ、そうだ秋田。少しいいか?」


「えぇ、何か?」


「今、秋田が俺に向かって走ってくる時に予知があったが、その予知の中の秋田の姿と今の秋田の姿が違うと思ったんだが......」


織田が振り向く瞬間に私達は入れ替わった。だから、この世界の織田が向こうの私の姿を見る事はなかった。しかし、『天衣無縫』の中で向こうの私の姿が残っていた。それは少し迂闊だった。


「あぁ、それはきっと気のせいですよ。だってこの世界で秋田 Aは一人しかいませんよ」


私はそうはっきりと答えた。


「そうか......じゃあまたな」


織田は軽く手を振り、私達は別れた。そして私は後ろに停まっていた車に近づき、乗り込んだ。


「すみません。お手数おかけしましたね。では車を出してください」


運転手は何かを言いたげにしていたが、その言葉を飲み込み、車を発進させた。

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作者名:トキハル | 作成日時:2019年11月17日 14時

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