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第五十五話【元の世界へ】 ページ35

私の目の前には、両開き戸があった。私の他に人の気配は無い。静けさだけが、場を満たしていた。私は戸の取手に手を掛け、扉を開けた。戸を開けると、中から部屋の冷気が外へと流れ込んだ。私はその寒気を気にしないまま、中へと入った。


部屋の中には、ストレッチャーが一台と壁側には複数引き出しがあった。そう此処は、遺 体安置所だった。この施設には、検 死後の遺 体が置かれている。私がこの場所に来た目的もただ一つ。十二日に此処へ運び込まれたという遺 体に用がある。


引き出しの扉には、その日運ばれてきた時間帯が記されていた。私は十二日に運ばれてきた目的の遺 体を探すと、それに該当するものが一つあった。私は手摺りに手をかけ、引き出しを開けた。引き出しの中には袋に入れられた遺 体があった。


元の世界に戻るには、この者の異能力を再び使用するしかない。なら、一度亡くなった者をどうやって再び異能力を使わせるか、それはこの者を生き返らせることだった。しかし、異能力で死人を生き返らせる類の異能力は存在しない。なら、どうやって相手を生き返らせるのか...... それは複数の異能持ちである私の力を使う事だ。


個々で真価を発揮しない異能でも、複数の異能を掛け合わせる事で人を蘇生させることができるのではないかという考えに突き当たった。ただし、異能力の同時使用は初めて行う。私でもどうなるかはわからない。そうであっても、もうやるしかない。私が行き着いた、私にしかできない最終手段なのだから。


私は徐に、袋の上から手をかざした。


(三秒巻き戻す異能......効果を助長する異能......未来を選択する異能......)


五年前から来た私がこちら側の事件を解決できたのも、多数の異能の使用だ。
半径五基米内にいる人物の声を聞く異能。
目を合わせた相手の過去を見る異能。
起こりうる可能性から未来を見る異能。
人の死因を視る異能。
全て私の『骸骨の舞跳』が元で成り立っている。


私自身、一日にこんなにも多くの異能を使うとは思ってもみなかった。もう二度と、こんな厄日が起こる事の無いように祈るばかりである。


暫くしていると、異能の効果がわかるように、袋がピクリと動いた。私はそれを見てから、袋のチャックを開けた。そして、薄い目の間から、ボヤけた世界を見る者に目を向けて、一言言った。


「やぁ、おはようさん。生き返ってもらったところ悪いけど......貴方の異能で私を元の世界に戻してくれるかな?」

第五十六話【一筋の願い】→←第五十四話【誰かの為に】



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作者名:トキハル | 作成日時:2019年11月17日 14時

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