第四十五話【彼の良さ】 ページ25
「敦君と鏡花ちゃんはAちゃんが恐いと思うかい？」
太宰の問いに敦と鏡花は小さく肩を揺らした。まるで心の内に敢えて表に出さなかった思いを、見透かされたような問いにも思えた。
敦は恐る恐る口を開いた。
「向こうのAさんは優しい人です。ただ、その優しさが雲隠れした時......Aさんの奥深くに眠っていた呼び出させてはいけないものを呼び出してしまったあの黒い感情が僕達には恐ろしく見えていました。もしかしたら、此方のAさんもあのようになってしまうのかと思うと......」
「Aちゃんはそんな事にはならないよ」
「えっ？」
敦は太宰の言葉に顔を上げた。
「此方のAちゃんがそのような者だと思うかい？誰かの為に真っ直ぐ進み続けるのが彼女の姿だと思っていたけど違うかい？」
「はい。僕にもそう見えます」
「まぁ......ただ、私の口から言えるのは、彼女達は同じではない事だ。名前も姿も同じであっても......その時まで歩んできた過程、経験、意思が彼女達の人格を分けた。受け入れてきた運命をどう乗り越え、歩み続けるか......彼女達自身はそれを理解している。それに私達が口に出す事は出来ないね」
太宰はそう言って何かを考えるように目を閉じた。
「あの......」
「ん？どうしたんだい？」
太宰は目を開け、敦を見た。
「僕はどうしてあんなにもAさんが強いのか考えてみたんですけど......」
「いいよ。言ってごらん？」
「あちらのAさんは、きっと一人だから強いんです。誰に頼ることなく、自分の力だけで解決しようとしている。僕もAさんと同じやり方は出来ませんが、あんな風に強くなれたらいいですけど......」
「無理に真似して生き方を変えようとすることはないさ。敦君には敦君なりの良さも強さもある」
太宰の言葉を聞いた敦は、照れ臭そうに笑った。
「やっぱりそうですよね。それでも、僕ももっと強くなれるように頑張ります」
「あぁ、そのいきだ」
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作者名：トキハル | 作成日時：2019年11月17日 14時
