第四十三話【探り合いの境地】 ページ23
「首領......お迎えに上がりました」
そこにまた知っている声が聞こえた。目を向けると、黒い外套に黒帽子をかぶるポートマフィア幹部......中原だった。確か今、この世界は五年後だ。成長期ならばあの頃よりも伸びている筈だが、それに比べて背が小さ......
「手前今、失礼な事を思わなかったか?」
「いいえ?何も?」
私は何もないような顔をしながら答えた。
「いや、それに何か背縮んだか?」
「私はこれから伸びるのでご心配なきを......ただ中原さんは......」
「お前......今日は随分と生意気だな......」
中原の拳が細かく震えていた。
「ねぇ、リンタロウ!ケェキはまだ!?」
痺れを切らしたのかエリスが森の服の裾を引っ張った。
「そうだねエリスちゃん。ケェキも買わないとね。今日は何処のケェキ屋さんが良いかな〜」
「ケェキでしたら、この通り沿いにある『ソレイユ・ルヴァン』という喫茶店のケェキがおいしいですよ。特にチーズケーキや苺のタルトなど」
「リンタロウ!それ食べたい!」
エリスは目をキラキラさせながら云った。
「わかったよエリスちゃん。じゃあ、そこのケェキを買いに行こうね」
エリスが嬉しそうにはしゃぐ姿を見た森の周りで、お花が飛んでいるように見えた。
「では、リンタロウさん。エリス嬢。中原さん。私は急ぎの用がありますので、これで失礼します」
私はお辞儀をし振り返った。少し歩いた所で、
「ちょっと待て......」と中原が私を呼び止めた。
「さっき、中原と言ったか?あいつは俺の事を名前で呼ぶ筈だ。それにその気配......手前何者だ」
矢張り、違う人物になり変わるというのは難しい。何故なら、同じ私という人間であっても、会ったこともない人物の性格や言動を表現する事は出来る筈がない。
私は振り返り、クスリと笑ってみせた。
「私はれっきとした秋田 Aですよ。ではさようなら
秋田が立ち去った頃、
「随分、面白い子だったね。もしあの子がこちら側の人間だったら、優秀な人材になり得ただろう」
森はケラケラと笑いながら云った。
「跡を追いますか?」
中原が森に訊いた。
「いや、いいよ」
森は右手を上げ、追跡を止めた。
「だがいずれ、彼女とは敵対するだろう。その時に、どれだけ私達と見合う力があるか、今から見ものだね」
森はそう言って、不適に笑みを浮かべた。
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作者名:トキハル | 作成日時:2019年11月17日 14時