第四十二話【仮の姿】 ページ22
クシュンッ......!
(うーん、誰かが噂をしている頃かな......)
自分でも勝手に抜け出した事は悪いという自覚はある。なので、誰かに噂されてもしょうがないと思っていた。しかし、こうでもしなければ一人で行動できなかった。取り敢えず今は、私が為すべきことをしなければ......
そんな事を考えながら街の中を歩いていると、
「リンタロウ!早くして!」
私の耳に聞き覚えのある少女の声が飛んできた。
「待ってね〜エリスちゃん。あともう少しだけ時間を頂戴。ほら、こっちのお洋服もエリスちゃんに似合うと思わないかい?」
「それさっきも聞いたー!」
(あれは......)
私の目にお店のショーウィンドウを前にやり取りをする二人の姿が映った。一人は白衣を着た街医者の男に、その側にはフリルがついた赤い服を着た少女がいた。
(首領とエリス嬢か。こっちでも変わらないのね......)
はたから見れば、何処にでもいる街医者のように見えるが、正体はれっきとしたポートマフィアの頂点にして首領......しかし今の姿は、幼女を溺愛する冴えない中年男性にしか見えない。いつも襟を正していてくれたらどれだけ良いかと思うが、息抜きもしなければ首領という仕事も務まらないのだろう。だから、私は敢えて黙認している。
すると、不意にエリスが私の方へ顔を向けた。
「あら、貴方。この前会ったわね」
エリスが私に気がつき、声を掛けた。私はエリスの側に寄った。
「こんにちは、エリス嬢。ご機嫌いかがでしょうか?」
「おや?君は......探偵社の......あの交差点の事件以来だね」
私には当然、何の事件か分からなかったが、ここは話を合わせるしかない。
「えぇ、リンタロウさんもお元気そうで」
「おや?前見た時よりも随分雰囲気が変わったね。何かあったのかい?」
森が私に訊いた。
流石は現にポートマフィアの首領だ。相手の観察眼には一目置けない。ただ私の返答次第では、いつ命を狙われてもおかしくない状況下だ。それが例え相手が街医者の姿であってもだ。今此処で彼が電話を一本かければ、まるで出前を頼むような感覚で特殊部隊並みの精鋭が直ぐに集るだろう。彼にはそれだけの権力があるのだ。
「えぇ、実は......」
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作者名:トキハル | 作成日時:2019年11月17日 14時