第二十三話【一時の休息】 ページ3
私達は倉庫街を後にし、ヨコハマの街中を歩いていた。五年後のヨコハマだからといって、地形も建物の場所も変わる事はない。知らない場所に放り出されるよりはマシだった。
「犯人が分かったって本当何ですか?」
歩きながら敦が私に訊いた。
「えぇ......しかし、これだけは犯人が分かっても一筋縄ではいきませんね。まだ、事件は終わっていないんですもの」
「それで、何処に行くの?」と鏡花が訊いた。
「それはね......さぁ、丁度着きました」
その声に敦と鏡花は目の前に顔を向けた。
視線の先には......白い字で『ソレイユ・ルヴァン』と描かれたクリーム色の看板に、甘いお菓子の匂い、暖かな陽光が当たるテラス席、其処はいたって何処にでもありそうなお洒落な喫茶店だった。
「ここ......ですか?ただの喫茶店ですが......ん?此処って、ねぇ鏡花ちゃん?」
「うん。前にAさんと一緒に来た事がある」
何故、私が此処に来たかというと、日記で此処の菓子が美味しいというという事でこの喫茶店に立ち寄った。つまり、事件には全く関係がない。
「まぁまぁ。時間もあるので......せっかくですからお茶しませんか?奢りますよ」
「えっ......で、でもお金は......」
確かにこちらの世界に来る時、自身の財布も携帯も元の世界に置いてきてしまった。敦がそのように思うのも当然だろう。しかし、私は外套の内ポケットを探り何かを取り出した。
「こっちの私のお財布、持って来ちゃいました」と私は二人にお財布を見せた。
「か、勝手に持って来てしまっていいんですか?」
「大丈夫ですよ。後輩に奢るくらい良いと思いますって。それに他人じゃなくて、私のお金みたいなものですから」
敦と鏡花は顔を見合わせて、
「じゃあ、お言葉に甘えて」と答えた。
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作者名:トキハル | 作成日時:2019年11月17日 14時