一生の願い事 ページ22
「何か……しっくりこない。僕、眼鏡似合わないんじゃないかなあ」
「似合ってるよ。あなたが見慣れていないだけ」
「そう？」
「そう。ああ眼鏡が嫌ならゴーグルでも俺は別に」
「……もしゴーグルだったらどこまで着けなきゃ駄目？」
「当然、24時間ゴーグル生活」
「それやるなら、もう東○オンエア入れて貰う」
偉大なる業界の大先輩に、敬意を込めて。
結局、形も価格も手頃で無難な黒縁フレームかつレンズ大き目(ここは須貝が譲らなかった)の奴を、変装用なのでと言い訳をして、そのまま売ってもらった。会計の際、何もなかったようにスムーズに須貝がレジに向かったのを見て、山本は少し驚く。
「これは俺の発案なので、俺が買う。あなたの仕事は、ちゃんとこれを使うこと。あと……何よりも、もう絶対目を擦らないこと」
店の外に出てから、須貝は手にした小さな紙袋を山本に渡しながらそう言った。
「わかった？」
正面から山本の目を見据えて、須貝は低い声でダメ押しをする。
「万が一でも億が一でも、この先お前の目にまた何かあったら、俺は一生喚き散らしてゴジラみたくその辺のもの破壊し尽くして、最後は自衛隊に討伐されて終わるからな。それが嫌なら一生目を擦るな」
顔と声がめちゃめちゃ怖いのに、言ってる内容はコントだなあ。
割と近い距離で須貝の真顔を見ながら、山本はわざと呑気なことを考えていた。
ちゃんと須貝の言葉を受け止めたら、いろんな感情でこめかみが痛くなって、きっと泣きたくなるに違いなかった。
せっかくだから、とその場で今買って貰ったばかりのフレームを取り出して、掛けてみる。
「どう？」
自分の目を覆う新しいシールドと共に、山本は笑顔を浮かべて須貝を見上げる。
「どうもなにも、お似合いよ。あなた男前だから似合わないとかないし」
つい目元に手をやってしまう癖が治るまで、なるべくかけといて。
フレームの端に指先で少し触れて、そのまま少しだけ山本の前髪を掠めながら、穏やかに真剣に、願う声が響く。
「ありがとう。大事にする」
「うん」
「眼鏡を」
「０点」
おわり
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作者名：しまむら | 作成日時：2021年7月10日 10時
