■仮面とサイレンの間に■4 (ページ11)

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●【新しい風が吹く】編ページ11

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？「サリュー、僕の愛したパリ。旅立ちの時がきた。
……いざ、混沌の日本へ。」

銀色の外套を羽織った人物は、転車台で行き先を合わせた列車に飛び乗る。

？「出発進行！」

グリップを押し込み、列車の車輪を前に進める。
彼を乗せた列車は風を切って走り出す。新しい世界へと。

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アリスは煤けた身体のまま山道を歩いていた。

掘削が途中のまま放置されたトンネル跡地が彼らのいまのアジトだ。
反響する砂利を踏みしめる足音がだんだんと近づいてくるのを感じて、ザミーゴは出迎えの言葉を投げる。

ザミーゴ「おかえり、子猫ちゃん。」

「はい、ただいま戻りま……」

ザミーゴ「なぁに、この傷。」

「…っ…これは任務で……。」

アリスが帰宅の挨拶を終えるよりも先に、ザミーゴの指が彼女の顎を捕まえた。
5,6歩はあったであろう距離を一瞬で詰めるザミーゴと、危うく舌を噛みそうになりながらも答えるアリス。

アリスに訊ねる彼の声色は甘いが、見つめる瞳は氷のように冷たい。

ザミーゴ「ずいぶん派手にやられたじゃん。新しい皮、いる？」

「……いえ、私には必要ありません。」

ザミーゴ「そぉ？じゃあソレ、治せるの？」

「ええ、ゴーシュ様に診てもられえば。」

目の下から口角にかけてぱっくりと切れた傷のすぐ横を、
ザミーゴの指がなぞる。
アリスはそのくすぐったさにぞわぞわと背筋が凍りつつも、彼の瞳から目が離せなかった。

ザミーゴ「……ふ〜ん。アイツに頼るのムカつくけど、子猫ちゃんがそう言うなら仕方ないか。
行っておいでよ、アイツのとこ。」

「承知しました、ありがとうございます。」

許可をくれた彼にお礼を言うと、アリスはくるりと背を向けて異世界へのゲートを開く。

ショートブーツを履いた片足を〝向こう〟に踏み込んだところで、ザミーゴに腕を掴まれた。

ザミーゴ「せっかくだからさぁ……」

手を引かれるままに彼の腕に収まれば、至近距離で目が合う。
彼の顔がゆっくりと近づいてくるのに、後頭部に手を置かれているためアリスは身動きが取れない。

その時、ぬるり、と傷口に冷たい唇が触れた。
普段は血色のない彼の唇が、アリスの血で赤く染まっている。

ザミーゴ「ヒヒッ。ご馳走さん。」

唇の端についた血を器用に舌で舐め取り、満足げに目尻を下げるザミーゴ。

アリスは今どんな顔をするのが正解なのか分からないまま、異世界へと帰っていった。

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