【歌い手】きみと100このあまいもの。【短編集】

▽きゃらめる/まるぐり ページ11

ひとつ、ふたつ、
ちいさく包まれた、あまいあまいもの。


それをひとつ口に入れただけで、甘いにおいがたちこめる。

だからわたしは、それをかなしいときに食べる。



「……っふ、うう、っああ、…まるぐりぃ…」

「今日はどうしたの」



幼馴染みに頭を優しく撫でられながら、嗚咽をもらす私。


小さいときから泣き虫で
いじめられたとき、失敗したとき、怒られたとき、よくまるぐりに慰めてもらうような奴だった。

それは二十歳を越えたいまも一緒。



「……ふられ、た、…っうう、てい…う、か浮気してた、…うぁあ、」

「そっか、辛かったね…はいこれ、」



そう言って、泣いてる私の目の前に

ちいさなあまいものを差し出す幼馴染み。

それを無言で受け取って、無造作に口のなかに放り込んだ。




ああ、甘い。甘い。今の私とは正反対。
…甘いはずなのに、なぜかしょっぱい。


それはわたしが、泣いてるから。




「……っ、うう、まるぐりはさぁ、？
こんな、私なんかと居て、いいの…」

「え、…なに今更」




ずっとずっと昔から気になってること。

幼馴染みっていう存在で、いつも隣に居た。

中学生の時だって、高校生の時だって、
付き合ってるの？って聞かれたこともいっぱいあった。

まるぐりは決まって『俺はこいつの保護者なんで！』って笑う。


ぜったい、付き合ってないとは言わない。
そんな関係で良いのかなっていつも思うんだ。




「わたしなんか隣にいて、……そのせいでかのじょできないんじゃないの」

「え、別にそんなことないけど？第一A以外に女子と関わらないし」



なんて、けろっとした表情を見せるけど

……まるぐりが以外と告白されてるのとか、知ってるからね。
学生の時からずっと。




「……んー、お見通しかぁ…

でも彼女なんてつくったら、いつでもAの傍に居られなくなっちゃうでしょ」




私の頭を撫でながら、いつもの明るくて優しい声でそんなことを言う。



………そうだよ、わたしは、こいつがずっとすきだった。



いつも振り向いてほしいって思うけど、こいつはわたしを『恋愛対象』としては見てくれない。


不器用すぎて、振り向いてもらう方法を間違えたみたい。





口の中には、あまいにおいと

＿＿かなしいかなしい、恋の苦味が残ってた。








(きみがすきだから、振り向いてもらおうと彼氏をつくったなんて)


(きみがすきだから、振り向いてもらおうとずっと隣に居たなんて)



((言えない。))

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