脱走編-壱- ページ7
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軍の朝は早い。
どこからともなく聞こえるラッパの音で目を覚まし、冷える空気を他所に身支度を済ましていく。
味気ない朝食を終えたら各自の持ち場に着いたり、訓練をこなしていく。
「うぅ…。さぶっ…。」
2月の北海道は寒さが厳しくなる一方なのだ。ましてや朝はその寒さに磨きがかかる。
Aの訓練は専ら射撃だった。一人で淡々とこなすと時もあれば、今や相棒みたいな奴と切磋琢磨しながらやることもある。
その相方とも言える存在の人間が今日は何故かいないのだ。
「あっれ〜〜?おかしいな。昨日言っといたはずなんだけど。」
昨夜訓練に付き添って欲しいと一言添えたのだが、その相方がいないようでは訓練にはならない。悔しいことにその相方の方が射撃の腕が一枚上手なのだ。
「(剣道の訓練は昨日やったしな〜〜…)」
「(しょうがない、1人でやるかぁ。)」
帰ってきた時相方をどついてやる気満々でAはその場を後にした。
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射撃場に向かう途中、宇佐美とバッタリ出会う。嫌いって言うわけでもないが好きでもない。余り関わりたくない人間であることには違いないのだが。
そう思っているとこちらに気がついたのか凄い形相で歩み寄ってきた。
「あれれ〜?燕寺上等兵殿はこんな所でサボりなの〜???」
「うっ、ち、近いぞ宇佐美。それより尾形を知らないか?」
近づいてきた顔を両手で押しやるように質問をすれば、不機嫌な様子の宇佐美は眉間の皺をさらに深くして、
「はぁ?僕が知るわけないでしょ?大方そこら辺ぶらついてるんでしょ。」
と応えるとそそくさとその場を立ち去ってしまった。
掴みどころがわからない宇佐美に翻弄されながらも射撃場へと向かう。
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西日が夕闇に染まる時、訓練を切り上げ宿舎へ戻ろうとすると何やら病棟が騒がしいのに気づいた。
Aは宿舎への歩みを病棟へと向け、騒がしさの原因を突き止めようとする。
「何があった」
「あ、燕寺上等兵殿!実は単独行動をしていた尾形上等兵が夕方川に沈んでいたのを発見されたんですが…」
そばにいた兵士に声をかけると、驚きながらも淡々と答えた。尾形は誰かと戦闘状態になり腕や顎が大惨事になった挙句、川に落ち低体温症で死にかけているらしい。
「何やってんだあいつ…」
焦りはないものの突然の呆気なさに虚無感が襲う。
しかしAの脚は自然と速くなっていたのだった。
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ロア……のスマホ版のようだ - いいですねー、、、 (10月9日 22時) (レス) @page14 id: 4dffd0e6b1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ポポポ | 作成日時:2021年9月1日 11時