恋ひ恋ひて、あへるときだに愛しき【宇髄天元】 ページ3
「まだ死んでなかったのね」
遊郭に嫁を潜入させ、自身の左腕を失った宇髄は目の前で笑う女に心底腹が立っていた。
いい加減死んでもいい頃なんだけどねぇ、と言いつつも彼女は宇髄の飯をよそう。
彼女は花柱、花端A。胡蝶カナエの死後、花柱に上り詰めた鬼殺隊のお色気担当である。
「てめーそんなこと言いにここまで来たのかよ」
「あら、イライラしてる?」
そう言って笑うAの美しく長い川のように背中を流れる髪に目が行く。
この二人、同期でお互いが柱になる前からずっと仲が良い。Aはよく宇髄の嫁と買い物に出掛けることもあった。
カナヲとの約束があるのだけれど、と時計を見て言うAは、しかし動こうとしない。
「心配したかー?俺が倒れた、って聞いて」
「……」
(おや?)
そんなわけないじゃない、と馬鹿にしたような笑みが返ってくるとばかり思っていた宇髄は、何も返ってこなかったことを不思議に思ってAを見た。
そこには頬を薔薇色に染め、目を逸らすAが座っている。
もしや本当に心配していたのではないか。そう思い、宇髄が右腕をAの方に伸ばそうとすると、パシンとその手を叩かれる。
「気安く触らないでよ」
「あぁ?」
(んっとに可愛くねー女…)
うちの嫁三人を見習ってほしいものだ、と宇髄が溜息を吐くと、ズキンと左腕が痛んだような気がした。最近ずっとだ。無いはずの左手が痛む。
思わず箸を落とすと、Aが駆け寄って宇髄の顔を心配そうな顔で見上げていた。
「痛む?無理しないで良いのよ、ゆっくり食べれば良いわ」
「お前…」
「何よ、手当ては完璧でしょ?」
この左腕の応急処置を行なったのはAである。胡蝶カナエとは仲が良く、その妹である蟲柱胡蝶しのぶに応急処置の仕方を習っていた。
宇髄は自分にずっと話しかけながら左腕の血を止めるため、自身の羽織りを千切った時のAを思い出し、ふっと笑みを漏らす。
何よ、と眉を顰めるA。
(あぁ、俺はこいつのことが好きなのか)
「おいA」
「ん?」
「四人目の嫁になれ!」
「ッ…い、意味わかんないこと言わないで!」
どこまでも素直じゃない愛おしい女だ。
***
恋ひ恋ひて あへるときだに 愛しき
言つくしてよ 長くと思はば
───────大伴坂上郎女
「恋しいと思い続けて逢った時くらいは真心からの愛のあることばを聞かせて欲しい」
万葉集より
散る花も、また来む春は見もやせむ【伊黒小芭内】→←夜もすがら、契りしことを忘れずは【村田】
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もも - カケさん» ????? (3月14日 15時) (レス) id: 12bc70a190 (このIDを非表示/違反報告)
松々先輩(プロフ) - カケさん» リクエストでしょうか…? (3月14日 13時) (レス) id: 0b2f636a57 (このIDを非表示/違反報告)
カケ - いかにして 過ぎにしかたを 過ぐしけむ 暮らしわづらふ 昨日今日かな (3月14日 10時) (レス) id: 7739bf6d58 (このIDを非表示/違反報告)
松々先輩(プロフ) - リリアさん» いつもありがとうございます。文章は結構こだわっている小説になるので、褒められてとても嬉しいです!リクエスト了解いたしました。少々お待ちください。 (2月22日 0時) (レス) id: 1d55cf96a6 (このIDを非表示/違反報告)
リリア - いつも楽しく読ませて頂いてます!文章が綺麗でとても素敵です!リクエストなんですけど、百人一首の中納言敦忠の「あひ見ての後の心に比ぶれば昔はものを思はざりけり」という歌でお話しが見たいです。長文すみません! (2月22日 0時) (レス) id: 0f152dd892 (このIDを非表示/違反報告)
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