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夜もすがら、契りしことを忘れずは【村田】 ページ2

最後の戦いが終わり、鬼殺隊に所属していた隊士たちがのんびりと穏やかな日々に慣れてきた頃。
先の戦いで戦果を残した水流派の村田は、同じく水流派であり、最後の柱である冨岡義勇の元を訪ねていた。

鬼殺隊にいた頃は、周りとは一線を引く冨岡を嫌味な男であると思っていた彼だったが、今や気さくに天気の話で盛り上がるほどの仲になっていた。

今日も、縁側で日光浴をしながら、二人は昔話に花を咲かせている。

「那田蜘蛛山で、鬼の繭に閉じ込められた時。隊服が溶けちゃって……」
「……あの時は、俺はAといたから、知らなかった」

懐かしい話になると、いつも彼女が話題に出てくる。
村田と同じ育手を持ち、乙まで成り上がった女性剣士。腕も立つことから、よく冨岡と任務を共にしていた女だ。

村田とは、数少ない同期であり、気さくな性格で、よく人の顔を覚えていたため、部下たちに慕われていた。

「あいつ、これ好きだったよな」

言いながら、村田は冨岡への手土産である隼石堂のまんじゅうを見る。

Aは、先の戦いで命を落としていた。
自らその命を投げ出し、肉壁となって冨岡を守り通した隊士の一人だ。

虫の息である彼女を看取ったのは、他の誰でもない、村田であった。

Aと村田は、お互いに惹かれ合う仲であった。
しかし、明日あるかどうかもわからない命で、未来を誓い合うことなどできなかった。

「…寒いなー。もうすぐ秋だもんな」
「……ああ、そうだな」

これ以上、彼女の話をするのは辛かった。

もし、自分が彼女より強い隊士なら、彼女に好きだと伝えて、こんな仕事は辞めてくれと嘆願できたかもしれない。
後悔ばかりだ。

「……そろそろ帰るよ。あんな仕事してたせいか、夜は苦手でさ」
「村田……」
「また来る」

無理やり理由をつけて、村田は冨岡の家を後にした。
まだ、彼女については心の折り目を付けられていない。

肌寒い秋風が、彼の髪を揺らす。

彼女も、とても綺麗な髪をしていた。夜の闇に映える、美しい色の。

赤く染まる夕焼けを見上げながら、ゆっくりと歩く。
鴉が二羽、寄り添いながら山端へ飛んでいく様を見つめる。

上を向いていないと、涙が溢れそうで。


***

夜もすがら 契りしことを 忘れずは
恋ひむ涙の 色ぞゆかしき

───────藤原定子


「一晩中、約束したことをお忘れにならないなら、私のためにきっと泣いてくれるでしょう。そんな涙の、色が見たいです」
後拾遺より

恋ひ恋ひて、あへるときだに愛しき【宇髄天元】→←月はただ、むかふばかりのながめかな【産屋敷耀哉】



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もも - カケさん» ????? (3月14日 15時) (レス) id: 12bc70a190 (このIDを非表示/違反報告)
松々先輩(プロフ) - カケさん» リクエストでしょうか…? (3月14日 13時) (レス) id: 0b2f636a57 (このIDを非表示/違反報告)
カケ - いかにして 過ぎにしかたを 過ぐしけむ 暮らしわづらふ 昨日今日かな (3月14日 10時) (レス) id: 7739bf6d58 (このIDを非表示/違反報告)
松々先輩(プロフ) - リリアさん» いつもありがとうございます。文章は結構こだわっている小説になるので、褒められてとても嬉しいです!リクエスト了解いたしました。少々お待ちください。 (2月22日 0時) (レス) id: 1d55cf96a6 (このIDを非表示/違反報告)
リリア - いつも楽しく読ませて頂いてます!文章が綺麗でとても素敵です!リクエストなんですけど、百人一首の中納言敦忠の「あひ見ての後の心に比ぶれば昔はものを思はざりけり」という歌でお話しが見たいです。長文すみません! (2月22日 0時) (レス) id: 0f152dd892 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:松々先輩 | 作者ホームページ:http:  
作成日時:2023年10月22日 1時

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