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side 侑
春。新学期で浮き足立つ稲荷崎高校の生徒たちの間で、囁かれとる噂があった。
『新入生にめっちゃかわええ子がおる』
まぁ、これだけ聞いたらどこにでもある噂やし、大概そんな可愛ないことが多い。
ただ、この噂はマジらしくて、俺はイヤイヤながらも友達に連れられてその子がおるっていうクラスへ出向いた。
「ん?なんやツム。なんか用か?」
「んー?いや、“Aチャン”見にきたんや」
そう言うと、片割れであるサムは眉をひそめて、お前もか、とでも言いたげな目を俺に向ける。
ちゃうねん俺は全然キョーミないから、と言ってサムの肩越しに教室の中を覗く。
あの子やで!と言って盛り上がっとる隣の友達と、それを見て女好きやなぁ、と呆れとるサム。
……人に隠れて顔が見えへんし…。
あの子やんな?
人の隙間から見ようと教室に少し足を踏み入れる。
すると、まだ見つけてへんと思った友達が彼女を指差した。
「あぁあれだよ、可愛くて有名な子!」
「んん〜?…って、えっ」
かわええよなぁ、とデレデレしとる友達に、それを見て呆れるサム。
でも俺はそんなことよりも、彼女の上に浮かんどる“数字”が気になった。
あの子がAチャン…やんな?え、って言うかなんやあの数字!?
驚いて隣の友達とサムを見るけど、そんな数字の話なんか一切せんとAチャンの可愛さについて語っとる。
な、なんや…俺にしか見えてへんのか…?
ジッと彼女を見つめると、一番端っこの数字が毎秒で減っていってることがわかる。
「……“1:4:30:29”…って…」
「おい、侑〜。Aちゃんがかわええんはわかるけど、見過ぎやでー」
「なんやツム、あんな純粋そうな女好きやったっけ?」
……こいつらには、見えてへんねんやんな…?
あらゆる謎を抱えたまま教室に帰って授業を終わらせ、放課後になる。
今日いちんち、あの子の頭の上にある数字のことばっか考えてもーた。
そんでから、部活見学の時。男子バレー部の方で彼女を見つける。
あれ、なんの数字なんやろか…?
俺にしか見えへんその“数字”は、どうやら一定の時間が過ぎるとカウントダウンするらしい。
何度か隣におるアランくんに確認したけど、アランくんにも何にも見えてへんみたいやったし。
あの子?かわええよなぁ、とか言われた時には、ちゃうわ!!とでっかい声で叫んでもーた。
「ツム…なんかお前、あの子見てから変やぞ」
まさか好きなったんちゃうやろーな?とニヤニヤするサム。
ちゃうで、そんな軽いもんちゃう。俺がどーかしてもーたんやろか…?
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