明星に込めた想いを42【オリオンの刻印】 (ページ35)

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直球ページ35

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慎重にペンギンの形となる海苔を貼り付けていた水神矢が、Aからの問いかけに｢ん？…あぁ｣と、不意をつかれたような返事を返す。

｢俺が知る限りほぼ毎日だな｣

｢すごいね、灰崎くん｣

｢それは日暮も同じだろ？知ってるぞ｣

｢あー…私はほら、ただランニングしてるだけだから｣

Aはそう言って謙遜する。元々褒められるのが慣れていないため、当然と言えば当然のリアクションだ。しかし水神矢はそんな彼女を横目で一瞥すると、静かに目を伏せて口を開く。

｢日々の鍛錬は大切だ。ここに来てまだ日は浅いが、日暮は日本代表としてよくやっていると俺は思う｣

｢面と向かって言われると、なんかこそばゆい……｣

自分では見えないところを、誰かがしっかり見ていてくれる。水神矢の素直な言葉に、Aの手が止まった。顔を上げて数秒もの間目を瞬かせていたが、表情はみるみるうちに緩んでいき、やがてはにかんだ。

｢あ、ラップ切れちゃった｣

ながら作業でラップを引っ張ろうと横に伸ばしたところで、中途半端に切れてしまう。中を覗いて見ると、空になった灰色のロールだけが残っていた。

｢確か換えのものが棚にあったはずだ｣

｢いいよ、私が取る｣

｢そうか？｣

｢うん、水神矢くんは気にしないで続けてて｣

おにぎりを結ぶよりも、海苔をペンギンの形に貼り付ける方が手間も時間もかかるだろう。断りを入れたAは、踵を翻して戸棚の中を漁った。

｢あったあった、これね｣

イタリア戦が始まる少し前に、ヒロト達と共に隣町へ出かけた際に買い足しておいたサランラップをビニール袋から取り出すと、戸棚をゆっくり閉める。

｢日暮｣

｢んー？｣

背後からかけられた声に、Aは流すような返事をしながら、新品のサランラップを開けた。数秒後、水神矢がとんでもない爆弾を投下する。

｢告白はしないのか？｣

＿＿鈍い音が厨房に響き渡った。

その音に驚き、慌てて後ろを振り返った水神矢。真っ先に視界へ飛び込んできたのは戸棚の扉に頭をくっつけたまま動かないAの姿だった。頭から湯気が出ているように見えるのは、恐らく幻覚ではない。

｢日暮！？｣

｢ご、ごめんなんでもない。気にしないで｣

｢い…いや、俺も野暮なことを聞いてすまなかった｣

あはは、はは......乾ききった笑い声を出して、赤くなった額を擦るA。戸棚に額を打ち付けるという彼女らしくないリアクションに、さすがの水神矢も冷や汗をかいて引き気味だ。