敗北の勝利 ページ23
❀
試合終了を告げるホイッスルが響き渡る。
＜イタリアが試合続行不可能なため、この試合はイナズマジャパンの勝利となります！＞
イナズマジャパンが、決勝に勝ち進んだ。しかし、明日人たちは素直に喜べない。半分だけの勝利だ。試合に勝って、なおかつイタリア代表を救うという、二つの目標のうちの一つしか達成できなかったのだから。
｢……｣
そんな冷えたフィールドの空気を、間近で眺めていたヒロトとA。ラストリゾートΣが完成してからというもの、二人は一言も話さなかった。
……否、話せなかったのだ。完成した必殺技が、結果的にイタリア選手に致命的なダメージを与えることへと繋がり、試合の幕引きを飾ってしまったのだから。
｢A｣
｢……っ｣
優しい声色でヒロトが名前を呼ぶと、掴まれていた肩に僅かな力が込められる。何も言わずに震えるA。
掴まれた手から伝わった振動から、彼女が涙を堪えていることに気づいたヒロトは、後ろに傾けていた顔を前に戻すと、軽く跳ねて体勢を持ち直す。
｢……見られたくなかったら、肩にでも埋めてろ｣
それは、ヒロトなりの精一杯の気遣い。不器用な言葉でそう告げると、フィールドに背を向けて体を翻し、負担がかからないようにゆっくり歩き出す。
それから間もなくして、肩に小さな頭が乗せられた。
試合終了のホイッスルが鳴り響いてから数刻が経つが、フィールドの中央で明日人はなおも、救いきれなかったイタリアを見つめていた。その左肩に、グローブをはめた円堂の手が優しく乗せられる。
「お前はよくやった。顔をあげろ、明日人」
キャプテンらしく、落ち込む明日人に励ましの言葉をかけた。そこへイタリアチームであるルカに支えられたペトロニオが、二人の前へ訪れる。
「みんなを守ってくれて、感謝する。……君たちなら、オリオンを倒せるかもしれない」
ペトロニオから希望を託される円堂と明日人。いずれにせよ、勝ったからには敗者の想いを背負って戦わなければいけないのだ。
『……』
そんな彼らのやり取りを、ピッチの外、影の中壁に背を預けて眺めていた後姿がひとつ。
『それはムリ』
片目を前髪で隠した儚げな少女は、円堂達の姿を嘲笑うかのように見つめた後一言吐き捨てると、頭上に結んだツインテールを靡かせながら踵を返した。
(勝ったのは嬉しいの。本当に嬉しいのよ？でも……)
(その話は泣き止んだ後に嫌ってほど聞いてやるよ)
(泣いてなんか、ないわよ……っばか)
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 319人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「イナズマイレブン」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：小雪
| 作成日時：2019年10月15日 21時
