意味 ページ48
❀
夕焼けの雲が西の空から広がって、厳かに見えるほど単純な深さで半天をばら色に染める。広場には変わらず、しんとした静けさが残っていた。
そして、灰色の雲が見守る空の下で、ずっとたまっていたほこりをぽろりと払うように、ヒロトは決意したような眼差しで告げた。先程までの荒々しい声ではなく、優しい声色で｢悪いかよ｣と。
｢それってどういう……｣
｢そのまんまの意味だ｣
｢そのままって｣
くっついていた額がゆっくりと離れる。その間も自分から目を逸らさないヒロトの姿に、Aは不覚にも心臓を高鳴らせてしまう。
しかし、すぐに我に返ると｢(何ときめいてんのよ！)｣と自分に喝を入れるかの如く、頭を振った。
｢冗談にしては笑えないからやめて｣
｢お前にはこれでも冗談に聞こえんのか｣
いくら言葉で打ち明けても、そこにあったギリギリの心情は半分も伝わらないだろう。だからヒロトは何度か躊躇いながらもAのか細い手を握り、指先を通してその気持ちを伝えようとした。
｢はな......っ｣
離して、そう言い終わる前にヒロトはAの手を引き、自身の胸元へと抱き寄せた。
｢灰崎と一星ならいいのに、俺はダメなんだな｣
｢な、なんであの二人が出てくるのよ！｣
日没が迫る広場で、いったい何をしているのだ。そんな文句も言わせないとばかりに、ヒロトの肩に頭を押し付けられる。香水の匂いが服越しから微かに流れ、Aの鼻腔を擽る。
｢だ、だいたい急に何よ！あんた、全然そんな素振り見せなかったじゃない！どうせまた私のことからかってるんでしょ？壮行会の時もそうだったもんね!?｣
その手には乗せられるもんか！と、噛み付くような勢いで捲し立てたAの顔には恥じらいの色が表れ、耳朶まで真っ赤に染っていた。心臓の音も異様に亢進しているのがヒロトにも伝わる。
｢なに自分で言って赤くなってんだよ、ばーか｣
｢あ、赤くなんてなってない！｣
｢どうだか｣
にやりと口角を上げたヒロトが、ふぅ…と生暖かい息をAの耳に吹きかける。すると｢ひっ…｣と小さな悲鳴を上げたAは、思わずヒロトの背中に腕を回して、抱きつくような姿勢をとってしまう。
｢アイツらにもそんな反応、見せてんのか｣
｢だから関係ないってば！｣
露出した首筋に顔を埋めたヒロトが、ぎゅっと抱きしめる力を強める。｢温かいな、お前……｣そんな甘ったるい声をわざと出して耳元で囁いたヒロトに、Aは震える拳で胸板を殴りつけた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 132人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「イナズマイレブン」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：小雪
| 作成日時：2019年9月18日 14時
