星を超えた想いを40【オリオンの刻印】 (ページ28)

今日:7 hit、昨日:7 hit、合計:87,973 hit

おつかいページ28

❀

モニターの中央に立っていた析谷が歩き出す。

そして俯いたままのAの席で立ち止まると、｢分かったね？｣頭に手を乗せて優しく言い聞かせた。Aは目を見開き、何かを訴えるような瞳を見せていたが、すぐに｢はい…｣と、力なく返事をする。

｢おーっほほほほ！それでは体が動かしたくて動かしたくて仕方がない日暮ちゃんには、隣町までのおつかいを頼みましょうかねえ｣

今まで黙々とし続けていた監督が、バレリーナのようにくるくると回転をしながら階段を上がり、先程まで析谷がいたモニターの前に現れる。

｢買い出し？｣

｢おっ。いいんじゃないか、A｣

それなら軽い運動にもなるしな、と析谷は調子のいいことを言いながら、撫でていた頭を今度は軽く弾ませるように、ぽんぽんと叩く。

｢ですが監督。隣町に行くにしても、彼女一人だと危険すぎます。この間のようにまた、オリオン財団の者から狙われてしまうケースも否めませんよ｣

｢もちろん、それは分かっていますよ。野坂くん｣

わざわざおびき寄せるような真似をしては、相手を刺激しかねない。後列に座る野坂が静かに手を挙げ、神妙な面持ちで告げるが、監督もそのことを想定して先に手を打っているようだ。

｢日暮ちゃんが一人でロシアの街を歩いていたら、こわ～いお兄さん方に目をつけられて、あ～んなことや、こ～んなことをされかねませんからね｣

誤解されかねない監督の艶かしい発言の数々。そして自分を抱きしめながらクネクネと体を動かす仕草に、思春期であり耐性のない者達は、すぐに顔を林檎のように赤らめて、恥ずかしそうに俯く。

｢誰かあのセクハラ監督なんとかして……｣

公開処刑のような差恥にかられたAは、その場に屈み込んで、がばっと顔を伏せてしまう。

｢それではヒロトくーん、灰崎きゅーん！｣

『あ？』

そんか彼女の気苦労も知らずに、監督はさも変わらず弾むような口調で、机に肩肘をついていた灰崎とヒロトに声をかける。そして次に告げる監督の言葉が、二人に大きな衝撃を与えることとなった。

｢日暮ちゃんの買い出しに付き添ってあげてくださーい！彼女のボディーガード、よろしく頼みましたよ｣

むふふ、と三日月のような笑みを口元に浮かべて手を振る監督を前に、暫しの沈黙。状況をすぐに読み込めなかったヒロトと灰崎は、きょとんとした顔で静かに見つめあった後、Aに視線を送った。

＿＿そして

『……はああぁ！？』

声が、見事にシンクロした。