私服 ページ29
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午後の二時を回ったロシア、カザニ。
イナズマジャパンの宿舎前では、ラフな格好に身を包んだヒロトと帽子を被った灰崎が、宿舎の入口付近にある柱に凭れて、待ちぼうけを食らっていた。
｢遅せぇな｣
靴のつま先で地面を叩き、凌いでいたはずのイライラした気持ちが、ついに不満の声となってヒロトの口から漏れ出る。イレブンバンドを確認しては舌打ちを打ち、中の様子を伺う。この繰り返しだ。
｢少しは落ち着けねぇのか、うるせぇ｣
｢そうは言ってもな、灰崎。もう十分は経つぜ？｣
｢なら連絡でもすりゃあいいだろうが｣
｢その手があったか。灰崎お前天才だな｣
お前がバカなだけだろ……という言葉を言えば突っかかられるので、あえて台詞を飲み込んだ灰崎。代わりに痛いほどの視線を送るが、スマホを耳に当てながら中の様子を伺うヒロトは気づきもしない。
｢電話くらい出ろよ｣
文句を吐きながら、しつこく電話を掛け直す。忙しなく左右へ行ったり来たりと繰り返しながら電話をかけるヒロトが入口に背を向けた、その時。
人影が現れ、宿舎の自動扉が開かれていく。
｢お待たせ、灰崎くん！……と、ヒロト｣
灰崎の名を嬉しそうに呼ぶ反面、まるでついでのように呼ばれたヒロト。無論、それを本人が気にしないはずもなく、握っていたスマホが音を立てる。
散々待たされた挙句にこの仕打ち。眉をぴくぴくと震わせたヒロトが悪鬼のような形相で体を翻す。
｢お前な！人をおまけみたいに言いやがっ……!?｣
しかし、彼女の姿を目にした途端ヒロトは開いていた口ごと言葉を噛み砕き、息を呑んだ。
石のように固まったまま動かない彼に見向きもせず、Aは柱に凭れる灰崎の元へと駆け出す。
｢どう、かな｣
持っていたキャスケットで口元を隠しながら、Aが訊ねる。すると灰崎は、スマホを閉じるとそんな彼女の姿を品定めするように眺める。
｢せっかく隣町に行くんだし、ジャージじゃロシアの街並みの雰囲気も台無しでしょ？相手から偵察されることも念の為に考えて、着替えてきたの｣
肩が見えるショルダーカットトップスという大人っぽい服装に加えて、下は落ち着いた色のフレアスカート。普段は下ろしている髪も、低い位置で纏めたギブソンタックに仕上がっている。
｢お前、そんな服も着るんだな｣
そんな服、と言いながら灰崎が着目するのは、少しだけ露出した彼女の肩だった。褐色肌の灰崎とは違い、彼女の肌は日焼けのしていない純白の色だ。
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作者名：小雪
| 作成日時：2019年9月18日 14時
