起床 ページ24
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ロシアの時刻は朝の６時２０分。
昨日できた頬の傷口に絆創膏を数箇所貼っているAは、忌々しげに目の前のドアを見つめていた。
日本代表の起床時間は６時。
その時間になっても起きない選手はマネージャーや、手が足りない場合は選手が起こしに行くことになっている。今回、その役を任されたのが彼女だ。
｢なんで私があいつのために、わざわざ……｣
扉に向かってそんな愚痴を吐く。マネージャーをやっていたため、それ以上の文句は言えないので、ゆっくり息を吐いて自分を落ち着かせる。
｢ほら朝よ。いい加減起きなさい｣
軽くノックをして声をかけるが、返事はない。きっと部屋で寝ている人物は今もぐっすりなんだろう。
｢……｣
Aはわざと音を立てて部屋の中に入る。そこでは気持ちよさそうな寝息を立てるヒロトが寝ていた。
｢人がわざわざ起こしに来てあげてんのにまだ寝てんの？こいつ。信じらんない｣
気持ちよさそうなその寝顔に苛立ちを覚えたAは、呑気に眠るヒロトの耳を引っ張り上げた。
すると、さっきまで大の字で寝ていた彼が、目を見開き、勢いよく起き上がる。
「な、なんだ！？……ってお前……！」
｢おはよう｣
ヒロトはAを見つけるなり眉間に皺を寄せた。
｢もうあんた以外の人たちはみんな起きてるんだからね。起こしに来てやったんだから感謝しなさい｣
そう言って、腹いせに寝癖で露になっている額に向かってデコピンをかます。｢いってぇー…｣と不機嫌そうな声でヒロトが呟き、眉根を寄せた。
「何偉そうに言ってんだよお前。仮にもマネージャーだったんだろ？当たり前のことじゃねぇのかよ」
微かな苛立ちに似た思いが、腹の底で渦巻く。
｢あんたマネージャーを何だと思ってんの！？｣
｢俺が言ってんのはお前だけだけどな」
そう言ってバカにしたようにヒロトが鼻で笑う。
その後大口を開けて欠伸を噛み殺し、お腹を掻きだすヒロトに向かって静かに立ち上がったAは、灰崎の枕を手に取ると｢起こしてやったんだから素直に礼くらい言え！｣ヒロトの顔面に投げて部屋を出た。
朝から苛立ちがおさまらないままAが食堂に行くと、真っ先に明日人が｢おはよう｣と声をかけた。
｢あぁ…うん、おはよう｣
｢何かあったの？｣
トレーを手に取り、Aが横目に一瞥をしてから挨拶を交わせば、明日人が不思議そうな顔で訊ねる。
｢どうせヒロトだろ｣
不機嫌な顔を見た灰崎が呆れ声で、そう云った。
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作者名：小雪
| 作成日時：2019年9月18日 14時
