好み ページ25
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「気持ちは分かるけど、もう少し仲良くしようよ」
そう明日人に優しく諭されて短くうん、と答える。A。分かってはいる。分かってはいるが、何故か二人の言い争いは本戦に行っても絶えなかった。
｢根本的に合わないのよ、私とアイツ。口悪いし目付きも悪いし、すぐにブスとか言うし。聞いてよ明日人、この前だって＿＿＿｣
出るわ出るわの悪口の嵐。さすがの明日人もどう答えればいいのか分からず、途中からは、あはは…と苦笑しながらなんとも言えない顔をしていた。
バイキング式の朝食をトレーに乗せて、鼻歌まじりにAが席に着くと、何故かヒロトが当然のように正面に座った。ぴしり、と空気に亀裂が入る。
｢ちょっと、何でそこに座ったの｣
｢ここしか空いてなかったんだよ」
｢アンタが早く起きないからでしょ｣
嫌悪なムードに、周りにいた伊那国メンバーの者達が、ハラハラとした表情で見守っている。
「おい」
Aが目玉焼きを口に運ぶと、突然。片手を顎に乗せたまま見ていたヒロトが、それを呼び止めた。
｢何で何もつけてねぇんだよ」
｢は？｣
｢目玉焼きには醤油かけんのが常識だろうが」
何なんだその常識は。醤油かけるもかけないも、そんなの人の勝手であり、その時の気分や好みだ。Aがそう言うと、ヒロトもまた言い返してきた。
｢かけた方が美味いだろ」
｢残念。それはあんただけ｣
｢かけろ｣
｢やだ｣
｢かけろ！｣
｢やだってば！｣
そんなやりとりをしながらヒロトがAの目玉焼きに醤油をかけようとしてきたので、彼女はその腕を両手で掴んで制す。
｢手ぇどけろ！｣
｢あんたが退けなさいよこのちゅるちゅる頭！｣
｢あぁ？んだとこのブス！｣
「 A、ヒロト！！」
大声で名前を呼ばれて、びっくりした二人は手を掴んだまま動きが止まる。聞こえた声の方を向くと、析谷が怖いくらいの笑顔をしてこちらを見ていた。
｢せ、析谷さん…｣
やばい。これはやばい。そんな言葉が頭を過ぎり、Aがヒロトを盗み見ると、彼も青い顔していた。
｢皆の迷惑になっているのが分からないのか？｣
｢はい...｣
滅多に怒らない析谷に怒られてしまった。
肩を竦めて反省の意を示すと、析谷はため息をついた後、｢素直でよろしい｣そう言って立ち去っていく。そんな析谷の後ろ姿を見送るフリをして、ヒロトを睨みつけると、向こうもこちらを睨んでいた。
(何でアンタが私のこと睨んでんのよ)
(何でお前が俺のこと睨んでんだよ)
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作者名：小雪
| 作成日時：2019年9月18日 14時
