紅茶 ページ39
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某日某所、天気は快晴。
あれから意識を取り戻し、目を覚ましたAと明日人が新条に連れられてやってきたのは、その建物にある最上階のガーデンテラスだった。
庭木や花が青い空気の中でさわさわ揺れて、パノラマのように平たい色彩で広がって見える。
暫く二人がぼーっとした顔で佇んでいると、ティーポットを手に持った新条が、中央に設置されたテーブルへと座るように促した。
｢紅茶は飲めるかい？｣
｢はい…ありがとうございます｣
澄み渡る青空、日本とは違うロシアの街並みが一望できるテラスに、落ち着きがなくソワソワしていたAの前に芳しい香りを放つお洒落なティーカップが差し出される。
｢まだ熱いから、気をつけてゆっくり飲みなさい｣
｢はい！｣
自身のカップにも紅茶を注ぎながら新条がわざわざ忠告したのにも関わらず、明日人は湯気がたっているティーカップの取手を掴んで口をつけた、が。
｢あ…っつ！｣
｢もう、何してんのよ明日人｣
唇を受け口につけた途端｢うっ｣と喉を詰まらせた。舌を火傷した明日人はティーカップを勢いよく小皿の上に置くと、その反動でジャージに紅茶を零してしまう。
｢新条さんが気をつけてって言ってたでしょ？｣
｢まさかここまで熱いとは思わなくて｣
｢湯気を見れば分かるでしょうに｣
テーブルに置かれていた布巾を手に取ったAは、慣れた手つきでジャージに零れた紅茶をシミがつかないように拭っていく。
｢熱かった〜｣と深い息を吐く明日人に向かって｢ほらこっち向いて｣呆れ顔でいたAがポケットティッシュを用いて頬についた紅茶を拭き取る。
｢人の話を聞かずに行動するのは明日人の悪い癖よ？｣
｢そういうAだって、ヒロトが思いっきり振ったペットボトルを"開かない"って理由で渡されて、確認もしないで顔にコーラ浴びてたくせに｣
今でもその情景が頭に鮮明に思い浮かぶのか、ぷっ。と小さく吹き出して思い出し笑いをした明日人に、Aからの鋭い眼光が突き刺さる。
｢口答えしない。それにあれはヒロトが悪いでしょ｣
｢まあ、否定はしないけどな｣
苦笑する明日人の鼻先を人差し指で、ちょんとつついたAは立ち上がると、使用したティッシュをゴミ箱へと捨てた。
同い年とは思えない、姉弟を思わせるようなやり取りを静かに紅茶を嗜みながら見守っていた新条は、懐かしむような、それでいてどこか寂しそうな瞳を宿す。その先にはいったい何が映ったのだろうか。
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作者名：小雪
| 作成日時：2019年7月16日 12時
