代償(リスク) ページ17
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「彼女に背中を預けるのには抵抗があるかい？」
そう言って海腹を横目に一瞥した野坂。Aもつられるように視線を向けるが、すぐに元の位置に戻すと結ばれていた唇を解いて口を開く。
「そうじゃない、けど」
「けど？」
否定しかけた彼女の言葉が中途半端に尻切れになると、間髪を入れずに野坂が聞き返す。
「……怖いのよ。ここで負ければ敗退は確実、予選突破なんて夢のまた夢になる。ただでさえ一人少ない状況で戦わなきゃならないのに」
気圧されたように神妙に答えて、罰が悪そうな顔で視線を逸らすAに野坂の片眉が歪に上げられる。
「へえ？君は試合をする度に、一々負けたあとのことを考えながら戦うタイプの人だったんだね」
「だ…誰だって負けるのは嫌でしょ」
挑戦的な顔と棘を含んだ悪意ある野坂の言動に自分の云おうとすることにおびえたように、Aは思わず躊躇した。が、直ぐ早口に続けた。
「それでも僕は勝つつもりでいる」
「…！」
「もちろん今もね」
言葉をやわらかく受け止めてから、ぐっと押し戻すように野坂は答えた。弾かれるように顔を上げたAが見た彼の表情は妙に引き締まっていて、目瞬ぎもせず固唾を吞むような真剣な色が表れていた。
「何かを成すためには多少の負担は付き物だ。それが今この瞬間だと僕は思っている」
「野坂くん」
胸を打たれたように名前を呼ぶA。だが、素直に野坂の言葉を受け入れるのは彼女の変なプライドが許さないのか、はっ。と我に返ると片頬を膨らませて、横目をするりと移動させた。
「あーもう分かったわよ。上がればいいんでしょ上がれば。どうなったって知らないからね」
「さすがAちゃん、聞き分けが良くて助かるよ」
口元に拳をあてがい、屈託のある目を細めてほくそ笑んだ野坂。敵が手強くなり、ピンチになればなるほど闘志に火がつくと言うのは、司令塔という彼の立場を考えると一興も同然なのかもしれない。
「野坂くんさ」
「なんだい？」
「ぶっちゃけ、この状況楽しんでるよね？」
単刀直入に核心をつくような言葉で問いかければ、野坂は瞼をゆっくり開く。そして穴のあくような瞳を見開かせた後、数回瞬きを繰り返すと、自然な動作でフィールドを見回しながら口を開いた。
「……まさか」
「今の長い間は何よ」
半眼に閉じた物言いたげな粘りつく眼差しを効果音がつきそうなほど楽しそうに笑う野坂に向けていたが、暫くするとAは諦めたように肩を落とした。
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作者名：小雪
| 作成日時：2019年7月16日 12時
