色々 ページ8
❀
「久しぶりだね、日暮さん」
アフロディの意識は円堂の後ろから恍惚とした眼差しを向けていたAへと逸れた。見惚れている彼女に綺麗な形で口角を上げてふっと笑ったアフロディは声をかけると挨拶のつもりで歩み寄っていく。
「お久しぶりです、アフロディさん」
アフロディが真正面に立つとAは少し虚をつかれたような表情を見せたがすぐに会釈をした。
「こうして面と向かって話すのは初めてだね」
「そ、そうですね。マネージャーと選手でしたし」
緊張をしているのか、言葉はカタコトで透き通るような瑠璃色の瞳忙しなく泳いでいた。
時折ちらちらと目線を上げてはアフロディと視線が絡むと慌てて目を逸らし、恥ずかしそうに俯いている。一人百面相をしている彼女がおもしろかったのか、彼は口元に拳を当ててクスッと笑う。
「これからは同じ仲間として、よろしく頼むよ」
「こちらこそ」
眩しいほどの笑顔を向けられたAは引き攣ったような顔でぎこちなく笑い返して握手を交わす。
できることなら早くどこかへ行ってほしい、と切実に願う彼女の気持ちなど知らずにアフロディは人当たりのいい笑顔を撒き散らしている。
「そういえば最後に君を見た一年前の時と今とでは、少し雰囲気が変わったようにも思えるね」
「え？」
「前の君は今よりも少し目が鋭くて、どこか人を寄せつけないような冷たい雰囲気を持っていたはず」
顎に手を添え、下から上へと品定めをするかのような目付きでAを見つめるアフロディ。「変な目でみんじゃねぇよ！」などという野次が噛み付く勢いで飛ばされたが、気にせず訊ねる。
「何か変わるきっかけがあったのかな？」
「はい、まあ……色々あって」
「色々って？」
「色々は色々です、話せば長くなるというか」
興味深そうに追求をするアフロディ。心做しか顔の距離も縮まっている気がしてならなかったAは冷や汗を顔中にかくと、 から笑いをして誤魔化した。
「ふーん。色々、ね」
意味ありげに呟くとアフロディは意識を目の前のAからその後ろに立つ者に移す。彼女と握手を交わす前から、その後ろで刺すような視線を痛いほど向けられていたことに彼は気がついていた。
「っとに気に食わねぇぜアイツ。何が神だ！神はこのゴッドストライカー様だけで十分だっつーの」
地団駄とまではいかないが
リズムを取るように片足を
踏み鳴らしては愚痴を零すヒロト。
先程ヤジを飛ばしたのも、彼である。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 190人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：小雪
| 作成日時：2019年5月15日 0時
