凡人 ページ6
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肺の底に溜まった空気を全て吐き出すかのようにAは大きな溜息を吐いた。そして、未だに向かい側で自信満々の様子で啖呵を切り、ゴールを決めると宣言しているヒロトに呆れ返っていた。
「なんだよスペイン戦で出番がなかった割には余裕があるじゃねえか」
「お前ら凡人が世界と渡り合えたってことは、俺は既に世界トップレベルってことだからな！」
からかうように灰崎は軽く言ったつもりだったが、ヒロトはその調子に乗って来ない。それどころか、また変な自信をつけた気さえする。
「どういう理屈だよ」
「相変わらずおめでたい頭ね」
ズボンのポケットに手を突っ込んだまま拍子抜けしたような声で訊ねる灰崎に続いて、Aはお手上げの仕草を見せると呆れ返って肩を竦めた。
「凡人のお前にはこのゴッドストライカー様の凄さはわからないだろうな」
「はいはい、分かりたくないし凡人で結構よ」
肩を組んでぐっと顔の距離を詰めた
ヒロトに、横目で疎ましい眼差しを
向けていたAは、さりげなく
手を払ってそう言うと距離を取る。
「まあアメリカがどんな面子で来ようが、優勝候補のスペインより強いってことはないだろ」
グラウンドに集められてから今まで黙って話を聞いていたアツヤが口を挟んだ。前に垂れたマフラーを後ろに払い、腰に手を当てて冷静な口調で話した。
「ロシアもアメリカに負けたってことは、思った程じゃないみたいだしな！このまま一気に連勝してグループリーグ突破と行こうぜ！」
そこまで神経質になるほどでもないと剛陣は云う。調子のいいことを並べて一人腕を組むと彼は決まったぜ、と言って満足そうに頷く。
「ヒロトといい剛陣さんといい、どうしてあんなに自分の力を過信できるのかしらね」
「まあ……それがあの二人の長所でもありますし」
眉を八の字に寄せては理解し難いと頭を悩ませるAに、光がフォローをするが凝り固まった顔で頬を掻かれてはまるで説得力がない。
「みんな、ミーティングルームに集まってくれ！」
手を打つ音が静かなグラウンドに響き返って、日中に石を割る音のように聞こえた。自由時間が終了したことを伝えにやってきた析谷のものである。
「と、その前に！」
析谷の脇から顔を出した監督が快活な声で「じゃじゃーん！」と言った刹那、手擲弾でも投げつけたようなクラッカーの音が選手達の耳に響いた。
(日本代表に追加招集された新しい仲間の登場です！)
(追加招集？誰だよ)
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作者名：小雪
| 作成日時：2019年5月15日 0時
