炙り出す ページ35
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会場は空気が震動するほどの興奮に包まれていた。その興奮の中心となっているのは追加招集されたアフロディの存在に他ならない。
そして、全選手が総入れ替えとなったアメリカ。Aブロック第三戦は全世界が注目していると言われても過言ではない。
「ヒロトくん岩戸くん、今日の作戦だけど」
「野坂さん、アメリカチームについてですが……」
「どんなシュートもドンとこいだ！」
「さすが円堂さんです！俺も精一杯頑張ります！」
もうまもなく始まる試合に様々な思いを馳せながらスタンディングメンバーに選ばれた日本の選手達は互いに最終確認や作戦について話し合っている。
そんな彼らの姿を、一人の少女は寂しげな眼差しでベンチの片隅に腰を下ろしたまま見守っていた。
「……(もっと努力しないと。じゃなきゃ世界の舞台には立てない……もっと強くならなきゃ。そしたらきっと試合に出してくれる)」
アジア予選で何度も試合に出ていたA。世界大会になってからまともにボールすら蹴れていない状況に焦りを感じ始めているのだろう。
組んだ両手に力が入り、爪が肉に食い込む。
「なに一丁前にきな臭せぇ面してんだよ、根暗」
頭上から聞こえたその声に、ついAの耳がぴくりと欹った。勢いよく顔をあげれば、そこには灰崎と共に控えとなった吹雪士郎の弟、アツヤがいた。
「アツヤくん…何の用？」
「俺がどこに何しに来ようが俺の勝手だろ」
温厚でクールな兄とは違い、どこまでも俺様気質なアツヤに、溜息しか漏れなかった。彼が来たんじゃ考え事なんかできっこない。
「暗い顔ばっかしてっと余計に根暗になるぞ」
「根暗じゃないわよ、ばか」
我が物顔で隣に腰掛けてきたアツヤを横目で睨みつける。小柄な体型には似合わない太眉と両サイドに跳ね上がった橙色の髪。
兄の士郎とは違ってその瞳は猫のようにつり上がっている。風が吹く度に彼のお気に入りのマフラーは揺れ、尻込むAを鼻で笑った。
「兄貴の言う通りだ」
「何がよ」
「選ばれなかったこと気にしてんだろ」
人差し指をAに突きつけ、見下した
態度を取るアツヤに眉が反応するように動く。
「よくそんなくだらないことで悩めるな」
「…っ！く、くだらなくない！」
アツヤの口角が吊り上がる。それを見てやばい、とAは思った。炙り出すように誘導されたのだ。
(どんな悩みか言ってみろよ)
(あんたにとってはくだらないから言わない)
(なら当ててやるよ)
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作者名：小雪
| 作成日時：2019年5月15日 0時
