思い立ったが吉日 ページ47
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「はぁ…美味しかった」
幸せそうな息を吐いて、まだ口の中で広がっているピロシキの味に浸りながら紙袋を綺麗に畳んで辺りを見回していると、不意に見慣れた着ぐるみが子供たちと触れ合っている姿がAの目に止まった。
「灰崎くん、灰崎くん」
顔をその着ぐるみに向けたままAは隣にいる灰崎の裾を手探りで摘んで控えめに引っぱる。一方の灰崎は露骨に迷惑そうな声で「なんだよ」と言う。
「あれってクマゾウじゃない？」
「あ？」
「ほらあそこ。子供たちと握手してる茶色いの」
Aが指す人差し指の先を辿り、彼女の言う着ぐるみを視界に入れた途端灰崎の目の色が変わった。
全体的に丸みの帯びた茶色い体。耳についた赤いタグ、黒くつぶらな瞳。間違いない、クマゾウだと。
「ロシアでもすごい人気ね」
「なんてったってクマゾウだからな、当たり前だろ。やっと世界のやつらもクマゾウの素晴らしさを徐々に認め始めたってわけだ」
相変わらずクマゾウの話になると、人が変わったかのように熱く語り始める灰崎は腕を組みながらクックックと篭もり笑いを零している。
「いいか？元々クマゾウってのはな＿＿＿」
「(灰崎くんすごく嬉しそう…)」
目を輝かせてクマゾウについて熱弁する灰崎にAは眉を落とし、困り切った顔をして頬をかく。
「(…そうだ)」
そんなAの頭にふと、名案が浮かび上がった。
「灰崎くん、ちょっときて！」
「は？ 」
有無を言わせずに灰崎の腕を掴んだAは立ち上がると、クマゾウの元へと歩き出す。
「おい、お前また何を考えてやがる」
Aに腕を引かれながら、顔をこれでもかと言うほど顰めた灰崎が言った。すると彼女はクマゾウの前で立ち止まると後ろに振り返ってこう告げる。
「何って決まってるでしょ？スコーリオさん、カメラこっちにもお願いします！」
観光ガイド兼、写真係でもあるスコーリオは先程から様々な選手たちの様子を見て回りながらシャッターを切っていた。
Aが少し大きめな声量でそんな彼の背中に声をかけると、スコーリオは嬉しそうに振り向く。
「ハーイ！おまかせでーす！何を撮ればいいですか？」
足を開き、両腕を大きく振った
スコーリオはそういうとカメラを持って
手招きをするAとげんなりとした顔で
落胆する灰崎の元へと駆け出した。
(おい、ふざけんのはお前の脳内だけにしろ)
(まあまあ、せっかくのロシアなんだし！)
(お前それどんな理屈だよ)
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作者名：小雪
| 作成日時：2019年4月5日 16時
