体験ツアー ページ29
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あれから商店街のおば様たちに囲まれていた氷浦の元へと向かい「学校に遅れるので」とAが彼女たちに断りを入れて氷浦の腕を掴むと、颯爽に商店街を抜けていった二人。
「ごめん、助かった。」
さすがの氷浦もこれには応えたのか「ふぅ」と息をつき、両膝に手を置いて苦い笑みを零していた。
「気にしないで？あの人たち、いつもああなの。昔から全然変わってないわ。」
晴天の空を見上げながら、Aは懐かしむように目を細めた。あそこの商店街の人達とは、小さい頃の付き合いだった。
「それにしても、まだ優勝が決まったわけでもないのに大袈裟すぎるよね。」
さすがにあの旗を見た時は表情が引きつった。
まあ、そこがあの人たちのいいところなのだが。
「(優勝か...。この調子なら、それも夢じゃないよな。)」
最初はサッカーができればそれでよかったのに、いつのまにか自分たちの目標とする規模は大きくなって、ついには優勝まで手が届くほどとなった。
−−−成長した。
そう感じせざるを得ないほどに。
「氷浦くんもそう思わない？」
話を振られた氷浦は「え？」と思わず聞き返してしまう。
「だから、優勝した気分でいるのは早すぎるって話。」
「あ、あぁ。そう、だな。」
優勝のことばかりを考えていて舞い上がっていたなど今の彼女に言えるわけがない。
「慢心してる時が一番危ないのにね。」
その三十分後、彼女の言葉を見事に象徴してくれるような人物が爆弾発言をすることになるのを、二人はまだ知らなかった。
「伊那国島サッカー体験ツアーです！」
「.....は？」
校長に重大な話があると呼び出されて早々、何故かそこにいた島袋の口から突拍子もない提案を聞かされて、Aは目を白黒させていた。
「私共アイランド観光は雷門中の優勝を記念して、伊那国島でサッカー体験をできるツアーを大々的に売り出す予定でおります！」
島袋から手渡されたチラシに一通り目を通したAは、今日何度目かも分からない溜息を再びついた。
「(前言撤回。一番慢心してる人が目の前にいた...。)」
こんなの、負けた時の中止費用がどれほど莫大にかかるのかと考えただけでAは頭が痛くなる。
「すごい。」
「え？」
「まじか。」
「えっ!?」
明日人、剛陣が口々に呟き、目を輝かせるものだからAは目を疑うように彼らを交互に見つめる。
−−−本当にこんな提案、良いと思っているのかこの子らは、という意味を込めて。
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作者名：小雪
| 作成日時：2018年8月10日 20時
