成長 ページ21
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ハーフタイムが終了し、両チームの選手たちは再びフィールドへと散らばっていく。後半開始が迫る中、会場の興奮と熱気はとどまることを知らない。
「後半、基山くんは中盤に下がるみたいですね。」
ピッチに立つタツヤを見つめながら、Aが口を開いた。彼女の言葉に、隣に座っていた監督が軽快に笑う。
「吉良ヒロトがパスを覚えたことで、雷門には厳しい試合になるでしょうねぇ。」
相変わらずこの監督は、他人事のように物を言う。
でも不思議と、昔のような苛立ち感じない。
「.....勝てますよ、明日人たちなら。」
「ほう、それはなぜ？」
両腕を組みながら、Aの表情を伺う金雲。
だが彼女は監督に見向きもせず、ただ真っ直ぐフィールドを見つめながらこう言った。
「信じてますから。今のあの子達なら、必ず勝てる。理由はそれだけで十分です。」
苛立ちを感じなくなった理由、それはきっと、彼女が選手を心から信じるようになったからだろう。
「.....成長しましたね。」
その言葉と共にぽん、と頭に重みを感じた。
Aはすぐに、手を置かれたんだと察した。
そしてその手の温もりは、温かさえ感じる。恥ずかしいのか、頬をほんのりと色付け、目を逸らすA。
「(不思議と、落ち着く。)」
Aがそっと目を閉じたすぐのことだった。
「まっ、私の経験に比べるとまだまだひよっこの甘ちゃんですけどねぇ。」
Aの頭に重りが落下した。
例えるなら天国から地獄へと突き落とされた気分だ。先程の優しい温もりはどこへやら。
「...私の感動を返してください。」
置かれていた手を乱暴に振り払いながら言うと、監督は悪びれた表情など一切見せずにゲームの電源を入れ始めた。
「(この監督に勝てないのが未だに解せないッ)」
天性とは憎いものだと、Aは思った。
そして、試合再開のホイッスルが鳴り響いた。
「おらよ！」
試合開始早々、吉良ヒロトが涼野へと強烈なパスを繰り出した。的外れな場所へとパスを出されてもなお、彼らは凄まじいスピードでそのボールを追いかけていく。
「味方選手を信頼しているからこそ、出せる高速パスですね。」
両膝に手を添えながら、Aが呟く。
「ええ。そして彼らもまた、吉良ヒロトに信頼を寄せ始めています。」
ゲームをしながらでも試合の状況把握をしている監督。そんなことより、先程から腕がぶつかって痛い、とAは心底嫌そうな顔をしながら思った。
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作者名：小雪
| 作成日時：2018年8月10日 20時
