―心から君を愛したい 2nd―【神童拓人】 (ページ33)

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Story68 ページ33

ぎゅ、と娘の手を握り、何とも言えない表情のお父さん。

その瞳には溢れそうな何かがあった。

「 …助けられなかったか」

「そんな…こと」

「この職業柄、小さい頃からAを何処かに連れて行ってやることも出来なかった。まだまだ時間がある…、そう思っていたからね。
　そんな時だったかな、Aの心臓に異常が見つかったんだ。
激しい運動も駄目、食事も制限されて。私達には想像の出来ない程の苦しみを、Aにはさせてしまった」

「 ……… 」

「病気と闘いながらも、我が儘一つ言わせてやれなかった。もっと色んなことやらせてやりたかった。
……親よりも、早く逝くなんてな…。」

「 ……… 」

何も、言えなかった。

Aのお父さんの話を、ただ俯いて聞いていた。

Aのお父さんは泣いていた。

友達と遊ぶことも、勉強しに学校へ行くことも

出来なかったA。

「代わってあげられたらな… 」

Aのお父さんが、切なげに言う。

「 Aには何もしてあげられなかったよ。
中学・高校なんて遊びたい時期に、入院ばっかりでろくに友達も居なかった。
通学とか何処かに出掛けるとか…。他の人が当たり前のように過ごす時間は、Aにとっては“夢”で。その夢を叶えてやりたいって思ってたんだよ。」

でも、もう…

言葉を詰まらせたAのお父さん。

きゅ、と胸が苦しくなった。

「でもAは…、必死に生きようと、残された時間を大切にしてました。
後悔しないようにって、AはAなりに自分の“当たり前の日常”を作っていたんだと思います… 」

Aのお父さんは小さく微笑んで、Aを見つめた。

「 Aは必ず、朝窓を開けていました。
それは俺がくるから、っていうもあるかもしれないけど、この病室から、Aは“今”というものを感じていたんだと思います… 」

「 …親より、先に逝くなよ」

俺には、親と呼べる人も血の繋がりがある人も居ないから。

Aのお父さんの苦しみがどんなものかは、分からない。

きっと、俺が想像した苦しみよりもずっとずっと辛いはずなんだ。