花屋とギャルソンの僕ら

ギャルソンの僕 22 ページ35

朝の通勤時間、さすがに人の目が気になりはじめ、

たいすけの腕の中で、もぞもぞとみじろぎして顔をあげると、たいすけが少し身体を離して俺を見下ろした


たいすけにそっと手首を引かれて半分だけシャッターを下ろした店の中に入る



店の中央にある大きなテーブルを囲むように置いてある椅子に腰掛けさせると、
数分後、目が腫れちゃうから、と、たいすけがホットタオルと保冷剤とコーヒーを淹れて持ってきてくれた


自分のコーヒーも置き、テーブルを挟んで俺の向かい側に座る



そんな、たいすけの冷静な行動をぼんやり見ていた
俺も、だんだん落ち着いて来た





29歳にもなってあんな泣き方するなんて、


しかもあんな、


ヤキモチ以外の何ものでもない、
感情剥き出しのこどもみたいな発言するとか



もう、言い訳のしようもない



恥ずかしすぎてたいすけの顔がまともに見られなくて、
受け取ったタオルに顔を埋めて自己嫌悪に陥る



すると落ち着いて来たのを見計らって、たいすけが口を開いた




「ごめんね、ひろみつ...

おれ、ひろみつに謝らないと...」




胸がきゅっと縮まった

どの、ことを言ってるんだろう


タオルから赤い目だけ出して、ちらっとたいすけを見る

「...謝ること、したの？
たいすけ...」


少しの間俺を見つめていたたいすけが、ゆっくり一言一言、考えるように言った



「... この間も、今も...

ひろみつのこと、急に抱きしめちゃったりして、

驚いた、でしょ？


それから、あの雪の日...

あんな寒い夜にひろみつをひとりで家に帰しちゃって...

すぐに追いかけられなくて、
すごく後悔してた」



...そんなことか

もっと違うことを言われるのかと思って、内心ひやひやしてた自分がいた



「...俺

たいすけに、なんて言えばいいのかわからなくて、

気持ちの整理がしたくて...連絡してくれても返事できなかった...」


「うん...
それはそうだと思う

ほんと、ごめん...」


複雑な表情のたいすけに、意を決して聞いてみる



「たいすけはあの時...

どうして俺を抱きしめたの...？

酔っててまた俺のこと女の子に見えた？

それとも...」



「...違うよ

ひろみつが好きな気持ちが溢れちゃったからだよ」


誰かと間違えたりしたんじゃない、ときっぱりと否定した


「俺は、ずっと最初から、

ひろみつが男だって分かった後も、

自分でも気付かないふりしてたけど、

ひろみつのことが好きだったんだ...」



ちゃんと俺の目を見て、たいすけ
が言ってくれた

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