花屋とギャルソンの僕ら

花屋の僕 9 ページ23

いつもより少し早いペースで飲み進め、気付けばビールの他に、ふたりで買ってきたワインをひとびん、空けてしまっていた

おれもひろみつも、そんなにお酒に強い方ではないが、
俺よりはひろみつの方が飲める



最近俺の様子がおかしいとひろみつは気付いていたようで、
お酒の力を借りてか、そのことを聞いて来た


マイコのことを話すのもどうかと思ったが、いつも一緒にいるひろみつに誤魔化すようなこともしたくなくて、自分も悪かったとおれが最近思っていたことを話した


すると、ひろみつの顔が見る見る内に悲しそうに歪んで来た
それはいっそ、悔しそうと言ってもいい表情だった


俺は何か、ひろみつの気に障ることを言ってしまっただろうかと心配になった時、


「...俺だったら好きなひとと一緒にいられるのなら、辛いことも苦にならないと思う

一緒にいられればそれでいい


結婚がそんなふうに条件だけで決めるもので、
好きなひとと一緒にいられないくらいなら、俺はしなくたっていい」


それは、人情味があり、ひとの気持ちを大切にするひろみつらしい考えだ、と思った

彼があの時そばにいたのなら、きっと、辛い気持ちに寄り添ってくれたに違いない、と思った



そうして、そう言いながらひろみつの顔も目も、どんどん赤くなっていった


「たいすけは怒っていいんだ

彼女だってたいすけのことなんて全然見てくれていなかったんじゃないか

もっと自分の気持ちを大切にしてよ、たいすけ！」


怒りの感情をぶつけて来たひろみつ

そのひろみつの言葉に、はっとさせられた



俺は今までの人生で、いちどだって自分のために怒ったことがあったろうか
　
自分の感情を押し殺して、本当の思いを捻じ曲げていたんじゃないか

本当は、すごく悲しかったし腹が立ったこともあったはずなのに、いつも自分ばかりを責めていた

自分の気持ちに寄り添っていなかったのは、俺自身だ



そのことを今、
　
ひろみつが教えてくれた


それは、俺にとって衝撃的な発見だった



まるで自分のことのように俺のために、
俺の代わりに怒っているひろみつが、すごく愛しくなってどうしようもなくて、

気付けばひろみつの身体を引き寄せ、抱きしめていた

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