天使のみつ 3rd

別れ2 K ページ33

少し経って、かちゃりと施錠が外されたが、家主は現れなかった


リビングに辿り着くと上着も脱がずに座り込んでいる藤ヶ谷の姿が目に入る


「藤ヶ谷、どうした…」

「北山…」


なんとも言えない表情で座ったまま、俺を見上げた藤ヶ谷

その手には、一枚の紙



藤ヶ谷がその紙を俺に手渡したので、顔を近づける





『たいすけ

もうこれないけどずっとだいすきです

ありがとう さようなら』





夢の中で見た、幼いみつが一生懸命考えて書いていた手紙だった





「……明日まで時間があると思ってたのに

もう一回くらい会えるかなって

でももう、会えないなんて…」



「…藤ヶ谷」



「俺…みつに何ができたんだろう」





藤ヶ谷の気持ちはよく分かった




俺も今朝目が覚めた時、みつの気持ちを思い出して、ひとしきり泣いてしまったのだから

藤ヶ谷に何かしてあげたいのにできなかった、もどかしい想いは俺もみつも同じだ







「多分…だけど
天使は藤ヶ谷に何かしてあげたかっただけだと思う

天使は藤ヶ谷が一緒に笑っていてくれる他にして欲しいことなんてなかったよ、きっと」


あまりにも落ち込んで見えるその背中にそっと手を当てた



「本は全部読んで来た

あの本は天使の目線で書かれている本で、

幸せのかたちは人それぞれだから具体的な答えは最後まで書いてなかった


ひとつだけ書いてあったヒントは『心のままに行動することで人はしあわせを感じる』と言うこと


藤ヶ谷が見つけるしかない

藤ヶ谷次第だ」




「…」




「役に立たなくてごめんな」






…言えないけど、藤ヶ谷


その天使、本当は俺なんだ

優しい藤ヶ谷と、同じ時間を過ごせるだけで、すごくすごく嬉しかったのが、いつもみつから伝わって来た

朝起きて夢を思い出すのがすごく楽しみだった


みつは間違いなく一緒にいるだけで幸せだったんだ




「北山…俺


天使と過ごした毎日にすごく助けられてたんだ

そばに居てくれるといつも優しい気持ちになれて、

自分のことを全部許せるような気がしてた


こうして、話していることとかも含めてその記憶がなくなったら…

自分がどうなるのか怖い」




糸が切れてしまった風船みたいに頼りなく見える藤ヶ谷が切なくて、背中に当てていた手を撫で下ろし、できるだけ優しく往復させる



膝立ちでしばらくそうしていると、藤ヶ谷が俺の胸に頭を寄せて来た




どきどきと逸る心臓に、藤ヶ谷が気付かなければ良いと思いながら、その頭を軽く抱いた

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