みんな元気になりますように

映画デート(日常)F1 ページ2

「ふじがや、映画行こー」

「え？今から？」

「うん、たまにはいいじゃん！」


珍しいお誘いだった

ここ数年はきたやまが殆ど家に来てくれてるし、行動制限のある街にわざわざ出かけることはなかった

「んー」

まだ夕方とは言え今から支度して出かけるとすればレイトショーだ

今日はなかなかハードな仕事だったので、正直少しゆっくりしたかったけど

きたやまと来たら、こんな日に限ってアドレナリンが出ると言うか、余計に元気になる


それにしてもこんな時間になぜわざわざ映画なのだろう

出かける支度をするのも面倒だし、と、俺がなんとなく渋っていると、

「な？いいだろ？」

ソファのそばの床にペタンと座って俺の膝に顎と両腕を乗せてしばらく俺の顔を覗き込んでいたきたやまが、急に顔を近づけてきて首に両手をかけ、得意のアヒル口でちゅ、とキスをした


「え…っ」

「ね？」





あの、



きたやまが、



キスまでしておねだりしてくる
なんて



その可愛さにクラクラしてしまい、完全にノックアウトされた

こんなのされたらダメに決まってる

完全に俺の負けだ



「うう…」

「ふじがや？」

きゅんきゅんしすぎて頭を抱えて唸り声をあげると、くりくりした目で余計に顔を覗き込むから、ため息を吐いて身体を起こす

もう一度、身体を屈めてそのほっぺたを両手で挟んだ



「…それで、何観るの？」

「いいの？やった！
あのさ、あのふじがやの映画！」


「え？俺？」

「うん、お前のあの逃げるやつ
今日が最後なんだ！」

「でももう終わってるんじゃない？」


きたやまの差し出したスマホの画面に映し出されていたのは、郊外のドライブインシアター


良く良く話を聞けば、きたやまは俺があげたチケット以外にも暇を見つけては自分でチケットを買って、終了間際の映画館を点々として観てくれていたそうだ


そんなこと全く知らなかった俺は、そのかわいい告白を聞いてきゅんどころか涙目になってしまった


ドライブインシアターは、だいたい映画館での上映が終わってから遅れて少し前の作品を上映するシステムらしく、今日が最終上映日なのだそうだ

確かに、車なら人目を気にせず映画が観られそうだ


「…きたやま…ありがとう」

「へへ」


今日のきたやまの可愛さはちょっと経験が無くて、言葉に尽くせない

できればこのまま家で…と思うけど、せっかくのきたやまのお誘いだから、名残惜しさを振り払い、もう一度今度は俺からちゅ、とキスをして、

「行こうか」

着替えるべく立ち上がった

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