ワンカップにカカオを敷き詰めて (ページ2)

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Aというピアニストは、かなりの変わり者だ。
自分の住んでいた場所しか知らなかった僕は、この荘園に来て改めて色んな世界があることを知った。

色んな人がいた。
その地域その地域によって文化も性格も変わってくるし、色とりどりで面白い。
皆しっかりと常識は弁えていた。けれど、Aだけは
誰がどう見ても変わり者で浮いていた。

例えば、まず第一に彼女は女性らしさを大切にしない。

「A！そんな格好しないの！」
「別にいいじゃないかマーサ、私はスカートを履いている訳では無いし。」
女性だと言うのにベンチに座る時片足はベンチにのせて、スカートならもう危うい格好。
ファッションに興味が無いらしく、服装もゲーム以外ではかなりラフだ。(ゲームでは役職らしい服装を心掛けるのが決まりだ。)

「フィオナの髪、綺麗だね」
「本当？ありがとうA。最近気を使ってるから嬉しいわ。Aは髪とかに何かしてる？」
「してない、だからそういうの出来るのすごいなって思うよ」
髪の毛だとか肌だとか、その辺には気を回してはいるみたいだけれど
世間一般の女性とは違い、やはりお手入れなんてものは彼女の辞書にないらしいのだ。

次に、彼女は酷く素直だ。

「A、あのね…今日、一緒にゲームに行って欲しいの。」
少しもじもじとAに告げる少女は、庭師のエマだ。
こんな姿を見て断れる者なんていない。
「ああ、エマ。悪いけれど今日は気分じゃないんだ。」

勿論このピアニスト以外には、だが。
そう言われたエマは少し残念そうにしつつも納得したように足早にその場を離れる。

彼女は素直だ。

その言葉の真意を疑ってしまう程に素直。
思った事は包み隠さず話すし、余計な気遣いをしたり嘘をついたりしない。
しかし人付き合いともなればその性格はあまりにも異端なわけで、彼女と初対面の人間は大体距離を置く。

最初は思うのだ。
勿論僕もそうだった、
こんな周りが合わせないと社会でやっていけそうにない奴を構う必要なんてない。

しかし、時間が経てば気付く。

彼女は周りを求めてなんかいない。わざわざ気遣われるとも思ってないし、望んでもいない。
ただそこにいるだけで、他人からの評価には無頓着なのだ。

最初は訝しんで遠目に見ていただけだったけれど、他人に物怖じせずなんでも言う姿。
褒める時は褒めるし、嫌な時もちゃんと伝える。

彼女は非常識な変わり者だが、悪くは無い