【あんスタ短編集・完全趣味】 (ページ18)

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君が知る時。【七種茨】ページ18

私は今、事務所の副所長で想い人の彼と唇を重ねている。

こんな事態になるなんて、思ってもみなかった。弁明するならばほんの出来心だったのだ。

事の発端は僅かに2週間ほど前のこと。
仕事を着実にこなす彼の背中に向けて後ろから、腕を回してみた。

「邪魔でもしに来たんですか？」

こちらを見もせず、冷たい声で離れろと遠回しに伝えられる。

「君の邪魔にならないように腕を回してる。君も私も暖かくて風邪予防にもなる。それに…」

そのままパソコンの画面に向かって指をさす。

「そこの計算が間違ってるね。…こうして仕事のチェックもできる。実に効率的だね。」

どこがですか、と言いながらもミスを正していく彼。

「そんなことより、何故突然こんな奇怪な行動をし始めたんです？」

「んー充電。君が今少し動きづらいのを我慢してくれさえすれば、君の駒である私は充電切れが回復されて仕事の成果をあげられるね。」

それなら効率的ですね、と至極興味のなさそうな声で応えられた。

数分ほど沈黙に耐え、それから部屋をあとにした。私が居なくなってせいせいしているであろう彼に、暖かい珈琲でも差し入れてあげるために。

「また来たのですか」

ため息混じりに今度はまともな用件なんでしょうね、と睨まれる。

彼のデスクの横にマグカップを置いた。
白い湯気が部屋の温度を少し和らげてくれたような気がした。

「これを置きに来ただけだよ。それとも、ちょっと寂しくなったのかな？」

ちょっとだけ期待を交えて…というのは嘘かもしれない。最早脈も何も無いことがわかったから、先程のような行動をとるに至ったのだ。

「いえ、そんなことはありませんが。ありがとうございます。貴女の珈琲を淹れる腕を含め、仕事だけは評価に値しますからね。」

「知っているよ。まだ私が有能なうちはお世話になる予定だからね。」

私の淹れた珈琲を美味しく飲んでくれるだけで十分だって、そう思っていたはずなのに。