となりの翔太くん。 (ページ32)

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こんな場所にしまっておいたことなど忘れてしまっていた。

ひとり暮らしをはじめて実家からこのタンスごと持ってきたときも、覚えてなかった。

今になって、どうして…

『…』

私は箱をもう一度タンスの奥にしまう。

彼と再会してから、いろんな記憶が頭をめぐる。

『…それでも、嫌い』

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翌日。

外に出ると、翔太くんも同じタイミングで部屋から出てきた。

『あ、おはよう』

渡辺「おう」

当然、同じ方向に歩き出す。

『…あのさ、』

渡辺「何？」

『…学生時代はピアス、つけてたよね』

渡辺「あー、今はもうピアスの穴は塞がったけどな」

そっか、そうだよね。

社会人だもの、とっくに塞がってるよね。

…あれ、なんで私、ちょっとがっかりしてるの。

渡辺「それがどうかしたか？」

『…ううん、なんでもない』

きっと彼は、私にピアスをあげたことなんて忘れている。

でもそれが普通で、変わらないものなんてない。

渡辺「そうだ、ラウールが"Aちゃんにこの前のお礼がしたいから何かプレゼントさせてほしい"ってさ」

『そんなのいいのに。気持ちだけでじゅうぶん』

渡辺「でもあいつ、一度言ったことは曲げねーから、ありがたくもらっておけば？」

『…うん、わかった』

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