名無しの悪魔【ルキ】 ページ12
「遅ェんだよ」
いつの間にやら足を引っ掛けられて体を浮かせた男の鳩尾に膝蹴りを叩き込む悪魔。
吐き出された呼吸と小さな悲鳴を最後に、男は気絶した。
「こォーんなに弱いクセに、何イキってやがったんだ、えぇ? 『俺らなら一捻り』って、逆にお前らが一捻りされてんじゃねェか。ザコが」
倒れた男の背中をグリグリと踏みつけながら言葉を吐き捨てる。
すぐにオちたことさえも気に入らなかったのか、舌打ちをした。
そして「寝ていいなんて一言も言ってねェ」と再び蹴り起こし、その顔に何度も拳を叩きつける。
「俺をッ、不快にッ、させてんじゃねェぞッ!!」
血が飛び散り、歯が折れたのか、白いモノが飛ぶ。
その有様を、男たちは凍りついたように見ていることしか出来ない。
動いたら次のターゲットは自分だと、そう本能的に感じたからだ。
そんな男たちの内心など露知らず。
悪魔は男が再び意識を失うまでひときしり殴って満足し、ゴミのようにその体を放り捨てた。
「おっと、放置して悪かったなァ。──次はてめえらの番だ。精々歯を食いしばっとけ」
そして男たちの方を向き、口を三日月にして悪魔は笑う。
その笑顔は心底楽しげで、それが余計に男たちを恐怖させた。
「あ、悪魔……」
一人の男が思わずと言った調子で呟いたのを耳ざとく聞きつけると「正ェ解」と機嫌良さそうに答えて、彼は暴力をまき散らした。
※
すっかり静かになった空間で、悪魔は一人佇んでいた。
まるで誰かを待っているかのように、イライラと何度も側に倒れている男の手を踏みつけている。
しかし、たたた、と軽い足音が聞こえて悪魔はその行為をやめた。
顔も確認せず、駆けつけた誰かを詰る。
「遅ェんだよ、馬鹿犬」
「すっ、すまん!」
そう慌てて謝る誰かは、悪魔の飼い犬だった。水浅葱の髪を持つ、青年。
彼に向けて不機嫌にチッ、と舌打ちをし、悪魔は短く命令を下す。
「いつもの通り後片付けしとけ。出来るだろ?」
「わかった」
「良いお返事だ」
そして青年を残しその場を悪魔は去って行く。
シャラリ、と血の臭いには似合わない、涼やかな音色が悪魔のピアスから鳴った。
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作者名:氷渡ミオ | 作成日時:2018年9月14日 23時