11話 ページ11
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帰り道、特に会話は無かった。
ただ、手だけはしっかりと握られていた。
しばらく歩いたところで立ち止まり、後ろを振り返る。
夕日をバックに立っている彼女はとても綺麗で、思わず見惚れてしまう。
ふと我に返り、彼女の方へと歩み寄る。
そして、そっと抱き締めた。
最初は戸惑っていた彼女だったが、やがておずおずといった様子で背中に腕を回してきた。
そんな仕草が愛おしくなり、強く抱きしめ返す。
どのくらいの時間そうしていただろうか。
どちらともなく体を離し、再び歩き始める。
『湊くん、今日ありがとね。私こうやって人と遊んだりするのも初めてで……すごく楽しかった。』
彼女は照れくさそうに笑っている。
その笑顔を見た瞬間、自分の中で抑えきれないほどの感情が生まれた気がした。
ああ、やっぱり好きだなぁ。
────好き。
その一言がなかなか出てこない。
緊張で心臓がバクバクと音を立てている。
ようやくのことで絞り出した声は掠れてしまっていて、ほとんど聞き取れないようなものになってしまった。
それでも、どうにかして伝えなければと思い、必死の想いで言葉を紡ぐ。
今しかない。
言わないと後悔する。
『湊くん。』
彼女が名前を呼ぶ。
驚いて顔を上げると、目の前の少女はその大きな瞳に涙をいっぱい溜めて、まっすぐにこちらを見ていた。
俺は慌ててポケットからハンカチを取り出し、彼女に渡そうとした。
『これ以上いったら……引き返せなくなるんだ。私、もうこれ以上は貰えない。』
意味がわからなかった。
どうして泣いているのかもわからなかったし、何より、彼女が何を言っているのか理解できなかった。
彼女の目からは大粒の雫が次々と溢れ出している。
そして、ついに堪えられなくなったように俺に別れを告げた。
『ごめん。ばいばい。』
そう言って走り去っていく彼女の後を追おうとしたけれど、足が動かなかった。
追いかけようとしたのに、体が言うことを聞かない。
頭では行かなきゃと思っているのに、心が拒否しているようだった。
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作者名:おふとん天使 | 作成日時:2023年7月11日 8時