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「______竹早静弥」






入学式も終盤を迎え、朝の眠気でうとうととしていた俺は聞き覚えのある名前を耳にしたが、顔を上げた時にはもうステージには誰も立っていなかった。

ついさっきまでは友達どうしようとか、あれしようとか色々考えてたのに。また急に怖くなった。本当に自分大丈夫かな。

手をぎゅっと握り、落ち着かない胸を抑えて小さく深呼吸する。



何も、なければ。




何も起こらなければ。



俺は、普通で居られるんだ。



ぐらぐらと揺れる自分の瞳が手の中にあるチャームから反射してうつる。

暫く眺めたあと、乱雑にチャームをポケット中に押し込んだ。


本当に嫌だ。この真っ黒で、何を考えてるかもか分からないような瞳は、



なんて忌々しいんだ。






式が終わり、皆はもう一目散に体育館の出口に向かった。

なにやらもう部活の勧誘が始まってるらしく、みんなは我先にと言わんばかりに出口に押寄せる。

俺も、人が少なくなり始めた頃に体育館から出ると、そこはもう人の海だった。


部活の勧誘にのる人

のらない人

そもそも部活に興味はなく、すぐ帰ろうとする人


この場にいる人は様々で、俺もその中のひとりだった。


「君、スタイルいいね!是非うちの軽音部はいらない?イケメンがバンドやるとめちゃくちゃモテるよ!!」

『でも俺、音楽経験全くないので……』

「大丈夫!最初はみんな初心者だよ!」


色んな部活から勧誘を受けながらも自分が一番興味のある部活を探す。

ぼーっと歩き回っていたら、いつの間にか敷地内の少し端の方に来てしまった。いやそれにしてもここの敷地内は広くて、校舎は綺麗だな。本当にここは普通の公立高校なのか?


辺りをきょろきょろと見回しながら歩いていると、誰かと肩がぶつかった。


『すみません。よく見てなくて、』

咄嗟に頭を下げて、謝ると目の前の人は何をしているのか、ずっと動こうとしない。

暫くして、不審に思った俺は恐る恐る顔を上げると、そこには


「なんっで……ここに、…Aが?」


聞き慣れた声が耳を掠る。


『み、なと……?』


そこには数年ぶりに見る過去のライバル、鳴宮湊がいた。

湊は顔があまり変わっていなくて、相変わらず純粋そうな目をこの俺の気持ち悪い目に向けていた。


湊がそれをしてくれるだけで俺のこの瞳が、黒い霧で覆われたようなこの瞳が、明るく綺麗に晴れそうだ。

足袋→←道着



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作者名:不満 | 作成日時:2022年9月1日 1時

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