◆ ページ25
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二人きりの資料室。
二人だけの空間。
あのときと同じ。
あのときから生まれた恋煩い。
すっぽりと言葉は簡単に喉から抜けた。
きっと、このタイミングだって思ったとき
一か八かで飛び込んだ新しい景色。
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ぽん、と頭に乗っていたファイルがなくなると
すぐに大きな手が私の髪の毛をクシャッと撫でて
「火気厳禁だっつったのAちゃんのくせに」
大きな瞳の奥に映った私が見えた。
ドキン、と心臓の跳ねる音。
櫻井先輩の手が頭からスルリと消えて
その指の隙間に、いつの間にかタバコを挟んでいた櫻井先輩は
手慣れた様子でそれを口に咥えていた。
「・・・え、あの」
状況を上手く理解出来ないのは、
胸の内に秘めていた感情をさらけ出してしまった反動のせいだ。
あんな風に言ってしまったのは気付いてほしい乙女心。
乱れた髪の毛を直すタイミングを見失って
トン、と棚に身体を預けてライターで火をつける姿を目で追いかけた。
「櫻井先輩…タバコ」
「誰のせい？」
サッ、と色が付け加えられる。
フーと煙と一緒に「俺のタバコ、好きなんだろ？」と形の良い唇から吐き出した言葉を
どう捉えるべきなのか、ぐるぐると回る渦の中から必死になって探し出す。
櫻井先輩の唇から吐き出される煙は、他とは違う特別な苦味。
眉間にシワを寄せて煙を吸う横顔を、私にだけ見せてくれた。
それを“正解”だと捉えていいのかは
三秒後、あなたの匂いが教えてくれた。
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「いつ告白してくれるのか待ってたんだけど？」
タバコの匂いが近づいて、バサッとファイルが落ちる音がすると
いつの間にか離れていた距離は埋まっていて、そっと重なり合った唇。
優しくて柔らかい。
唇を伝う、櫻井先輩のタバコの苦味と、僅かな甘味。
ぐるぐると回る渦は紫煙によってかき消され
「タバコじゃなくて、俺のこと好きって言えよな」
くちびるは、あなたのタバコの匂いで溶かされた。
〈 くちびるで溶かして 〉−END−
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作者名：妃紀
| 作成日時：2018年1月17日 18時
