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「おーい！次五郎だぞ！」
「ごろくん、大丈夫？無理しないでよ？」
「分かってる。大丈夫だから」
自分に打順が回ってきた。
バットを持ってバッターボックスに向かう間中、四郎の痛い程の視線を感じる。
どうしても野球がやりたい訳じゃない。
どうしてもこのメンバーで遊びたい訳でもない。
ただ、病気に負けたくない、こんなことも出来ないなんて思いたくない。
四郎に本来しなくてもいいはずの我慢や気遣いをさせたくない。
それだけだ。
それだけだったのに。
「ごろくんっ！！！」
家の庭で三郎と四郎とキャッチボールや素振りをしていた効果か、ただのまぐれか、バットにボールが当たっただけでなく、その打球はセンターオーバーのヒットになった。
高揚した気分のまま、何のセーブもかけずに2塁ベースまで全力疾走した五郎の身体は素直に悲鳴を上げ、彼の期待も思いもあっさりと裏切られる。
幸い発作自体は酷いものではなく、四郎が持ってきた薬を吸入したことで大事には至らなかったが、もちろんその後野球を続けることは出来ず、しばらく休んだ２人はそのまま帰宅することになった。
とにかく、とにかくショックだった。
同年代の友人達が普通にやれていることが、自分にとってはこんなにもハードルが高いこと。
四郎の制止を振り切ってまで強行した結果が、ただただ周りに迷惑をかけただけだったこと。
何より、いつまで経ってもどうやっても自分は四郎のお荷物でしかないということが。
あれから５年以上が経ち、今となっては馬鹿なことをしたな…と思う程度の感傷しかないが、ただ四郎に感じた劣等感や引け目、申し訳なさのような思いだけは、未だに五郎の胸に巣食っている。
この思いは今後それぞれが自立し、物理的な距離でも出来ない限り、いつまでも居座り続けるのだろう。
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作者名：はちこ | 作成日時：2020年8月30日 21時
