55 ページ5
**
「産屋敷邸襲撃〜！！！」
数日の静穏から、突然蝶屋敷に響き渡る鎹烏の声に耳を疑った。
しのぶちゃんと顔を見合わせる。
血の気が引いていくのがわかる。
お館様は無事だろうか。
いつものように隊服を着ていたしのぶちゃん。
なんだか、少し嫌な予感がして。
そのまま飛び出そうとする手首を引っ張った。
『しのぶちゃん。』
し「Aさん…。」
まっすぐわたしを見つめるしのぶちゃんを、抱きしめた。
ふわっと鼻をかすめる藤の花の香り。
知ってる。
珠世さんたちと共同研究で鬼を人間に戻す薬を作りながら、
自分の身体でもずっと研究を続けてること。
先日カナヲと話していた、カナエさんを殺した鬼の話と、その倒し方。
わたしとアオイはこっそり聞いて、涙を流した。
この人は、鬼のいない世界を作るためならきっと最初に自分を犠牲にしてしまう。
『しのぶちゃん。』
し「言わなくてもわかっています。
貴方とアオイがあの話を聞いていたことも知っています。」
『うん、ごめんね。お館様はもちろん守りたいけど、
どうしても…しのぶちゃんを、行かせたくない。』
だめだと分かりながらも、子どものようなことを口にしたわたしにクスッと笑うしのぶちゃん。
身体を離して、わたしの顔をじっと見て目を閉じた。
し「…貴方のこと、本当に大好きです。ずっと、姉妹のように思っていました。
姉さんが死んでから、何度も挫ける度に、優しい貴方が救ってくれた。」
『そんなっ、わたしの方がっ』
し「Aさん、自分を信じてくださいね。」
強い眼差しを向けてそう言うと、蝶柄の羽織で舞うように背中を向ける。
『しのぶちゃんっ！！！』
しのぶちゃんはチラッとわたしの顔を見て、綺麗な顔で微笑んだ。
わたしの叫びを聞いてか、アオイ、きよ、すみ、なほが血相変えて飛び出してきた。
ア「しのぶさんは！」
しのぶちゃんが向かったことを伝えると、四人は目にいっぱい涙を溜めて抱きついてきた。
カナヲは柱稽古中だ。
どこからかきっと向かうのだろう。
今日は新月だ。
お父さん、お母さん、兄弟たち。
そしてカナエさん。
どうか、大切なみんなを守ってください。
そして、わたしに、少しの勇気を。
蝶屋敷を出た。
袖を通したのは、剣士の隊服。
赤く染まった日輪刀を握りしめる。
もしもの時は、今日かもしれない。
役に、立てるだろうか。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 315人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
金平糖 - うぅ...感動しました... 一気読みしたんですが、一気読みしたからこそ凄く感動しました。こういう系の話には弱いので、、、 (2021年10月2日 23時) (
レス) @page45 id: f3f7dadf62 (このIDを非表示/違反報告)
雪乃 - 不死川の夢小説少なかったのでとても嬉しかったです！出来れば続編も読みたいです、お願いします。一つ…鬼舞辻が鬼ﾞ無ﾞ辻になってたので、そこは直して頂きたいですね。 (2020年12月11日 7時) (レス) id: cedaea8f17 (このIDを非表示/違反報告)
かぼ(プロフ) - ろこもさん» 完結おめでとうございます！素敵な作品でした！実弥と夢主が幸せになれて良かったです(はぁと)ろこもさんも大好きです！ありがとうございました！ (2020年8月7日 5時) (レス) id: abbc87cbf8 (このIDを非表示/違反報告)
ろこも(プロフ) - 我妻ライさん» 我妻ライ様！返信遅れてしまいすみません！絶叫嬉しい限りです！元気が出て頑張れました！！読んでくださりありがとうございます！ (2020年8月7日 0時) (レス) id: ef1ad6d2c7 (このIDを非表示/違反報告)
ろこも(プロフ) - かぼさん» かぼ様！返信遅れてしまいすみません…！一気読みありがとうございます！実弥さんを表す文章力が足りませんが、より好きになるお手伝いができれば嬉しい限りです…ありがとうございます…！ (2020年8月7日 0時) (レス) id: ef1ad6d2c7 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ろこも | 作成日時：2020年7月7日 22時
