ラブセレナーデ16

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A『お手洗いに行ってくる』


「ついてく」と言った篤人を『ひとりで大丈夫 笑』と断り、席を立った。

ずっと体温を感じていた手が離れ、寂しいと思った自分に、少し笑う。





薄暗い店内。静かに流れるジャズ。煌びやかな人達。


非日常の世界にいるのがなんだか不思議で、でも、楽しいと思った。

みんなスタイルが良くて可愛い子ばかりだな。なんて思いながら、歩く。









足を止めたのは、「ねぇ」と背後から声が聞こえたから。


振り向くとそこにいたのは、とても美しい女の人。

体にピッタリとフィットしている青いドレスが、彼女のスタイルの良さを際立たせている。




見た事ある。と思った。

お酒で少し鈍くなった頭を動かし、複数の雑誌の表紙を飾るモデルだ。と思い出す。

名前は…確か、紅子。だったはず。







A『…はい』


紅子さんの顔はとても小さく、なのに瞳は大きく、今まで出逢った事が無いくらい美しい人で、名前と同じ紅色の口紅がとても良く似合っていた。

本当に同じ人間なのかな。と思ってしまう程、紅子さんは美しい。

紅子さんの目が動き、私のつま先から頭の上までを見た。









A『…あの、』


なんでしょう？という私の言葉を彼女が遮る。






紅子「あんた、ウッチーの何？」


紅い唇が紡いだ声のトーンは、低く。

一瞬で、彼女は私に好意を抱いていない事を知る。


咄嗟に手を後ろに隠したのは、指輪を見られたく無かったから。







A『……』


篤人が「秘密」と答えているのは、私を守ってくれているから。

言葉が見つからず、私はただ俯いてしまうだけ。






紅子「彼女な訳無いよね。地味だもんね、あんた 笑」



やっぱり私は何も言えず。

そんな私に更に苛立つ彼女。







紅子「3次会に来てからウッチー、あんた達の席から動かないよね。

幼馴染みとか、高校の同級生とか？あんた達、何なの？」




・




紅子「っていうか、あんた素人でしょ？素人がこんな所に来んなよ」




・




紅子「自分でも場違いだと思ってるでしょ？とっとと帰れば？」




・




悪意。を真正面から受けるのは、初めてで。

今まで私は甘くぬるい世界にいたんだ。と初めて、気づく。

何も言えない私に、彼女の紅い唇がまた開く。




・




紅子「友達か幼馴染みかなんてどうでもいいけど。ウッチーはあんた達とは違う次元にいるの。

そろそろ気づいたら？笑」



向かって来る刃は鋭く、私の心を削っていく。

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