アップルソング2

囁く愛の言葉もひとりでに歩き出す ページ49

窓の外には、少しずつ夜が近づいて来ていた。


大きなソファーに身を沈めれば、私の体を心地よく包んでくれて。
『このソファー、フカフカだ。もう立ちたく無いかも 笑』と言った私に、篤人はフっと笑う。






「飯食いに行く前に、このソファーでってのもアリだけど」
『…無し』
「今日は邪魔されず、ずっと二人でいられるんだよ？フカフカ具合、確かめる？」



意地悪な顔をして、近づいて来る篤人。

立ち上がろうとするも体がソファーに沈み込んでいて、なかなか立ち上がる事が出来ない。
私が立ち上がるよりも、篤人が私に覆い被さる方が早かった。




悪戯っぽく笑い、近づいて来る篤人の顔。
篤人の唇を受け入れようと、反射的に閉じる瞼。

唇に触れたのは、篤人のフッと笑った吐息だった。






「期待させちゃったみたいだけど、もったいないから夜にたっぷりね。どうしてもしたいっていうなら、俺はいいけど」





少しだけ期待してしまった自分を恥じながらゆっくりと瞼を開ければ、意地悪そうに笑う篤人の顔があって。
チュッと音の鳴るキスを落とされ「早いけど、飯食いに行こ」と手をグイっと引っぱれ、ソファーから立ち上がる事が出来た。








「こんなにいいホテルだからね。本当は、フレンチとかイタリアンとか、お洒落な方がいいかなとも思うんだけど」

少しだけ乱れた私の髪の毛を直してくれながら、篤人は続ける。




「フランスもイタリアも、行こうと思えば1時間半位で行けるんだし。せっかく日本にいるんだから、寿司ね。よし、いいんじゃない？」

私の髪を直し終わった篤人が、満足そうに頷いた。









篤人が連れて行ってくれたのは、ホテルの中に入っているお寿司屋さん。


広い店内には、カウンターだけしかなくて。
大きな窓の下には、東京の綺麗なネオンが広がる。




「飲んでいいよ。ほどほどにね」との篤人の言葉に甘え、ビールを1本だけ頼む事にした。

丁寧に握られたお寿司はとても美味しく、板前さんが親切にネタの説明をしてくれて。




一貫ずつ出されるお寿司。

ゆっく流れる時間。

贅沢な時。




きっと篤人の胃袋はいっぱいにならないだろうな、と思いながら、目の前に置かれるお寿司に箸を伸ばした。







『ご馳走様でした』
「ありがとうございました」


お店を出た瞬間「…食い足りない」と篤人が呟いた言葉に、思わず笑ってしまう。





結局同じ階にあるイタリアンレストランに入り、篤人はピザを一枚ぺろっと平らげた。

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