ラブセレナーデ6

11 ページ11

「へぇ。長谷部さんの為に、作ったんだ」
『うん。これなら他のクッションと同じ色だし、みんな気づかないかなって思って』
「わざわざ、Aが作ったんだ」
『…うん』


座っていたクッションを、自分の前に抱きかかえた篤人。
少し機嫌悪くなったかなと心配したが、何故か篤人は笑っていた。




「ふーん。俺以外の男の事、今日一日ずっと考えてたんだ」
『…考えてたっていうか、』
「俺にだって、こういうの作ってくれてないのに」
『だって、篤人には必要ないでしょ？』
「…まぁ」
『全然気づかなかった。何度もその椅子に座ってたけど、本当は長谷部さん辛かったのかな』




ブハっと笑い声が聞こえ篤人を見ると、楽しそうに笑っている。




『笑い事じゃないよ、篤人』
「わかってるけど」
『本人は、きっと辛いんだよ』
「…」
『もう。自分の事じゃないからって、笑い過ぎ』
「いや。長谷部さん、きっと喜ぶなって思って」
『もう、いい。きっと色々と我慢してるのに』


クックッとまだ笑い続ける篤人から離れようとすると、腕を引っ張られた。
バランスの失った体は、篤人に受け止められる。




「A。あのさ」
『…なに？』
「Aが優しいのは、よくわかるけど」
『…優しくなんかないよ』
「でもさ。俺以外の男の事ばかり考えてるのって、ちょっと面白くないんだけど」
『…だって、』


フっと笑った篤人に、そのままソファーに押し倒された。
私の肩をガッチリと押さえつけている篤人は、なんだか少し楽しそうで。
それでも、ドキリと心臓が高鳴る。



「俺の事だけしか考えられない様にしてあげようか」
『…ダメ』
「ダメ」
『待って』
「待たない」
『…ご飯、遅くなっちゃう』
「別に、いいけど」
『…まだ、夕方だよ？』
「関係ない」
『…ダメ』
「ダメ」
『…お願い』
「本当に、頑固だね」


再びフっと笑った篤人が優しいキスを私に落とし、ゆっくりと起き上がった。



「じゃ、夜ね」
『…』
「じゃ、今」
『…ダメ』
「夜と今。どっちがいい？」
『………夜』
「決まりね」


手をグイっと引っ張られ、その反動でまた篤人の胸にすっぽりと包まれる。
そのまましばらく、篤人は私の髪の毛を優しく撫でていた。



篤人の優しい手。
篤人の温もり。
篤人の香り。



大好きな人が、隣にいてくれる。


幸せだな。




そんな優しい時間が、ゆっくりと過ぎて行く。




たまにクックッと聞こえ篤人を見ると、やはり彼は笑っていた。

12→←10

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す