優しさも持ち合わせて ページ10
「グハァッ…！」
その銃声はミミックの男と織田の手から同時に放たれたものだった。
その後、太宰達の後ろに控えていた構成員が銃声を連発した。
「悪いねぇ、吃驚させて
迫真の演技だったろ？」
「…演技？」
「彼が外す事は判っていた
狙撃銃の跡は左頬に付いていた、詰まり彼は左利きだ
利き腕ではない右手の上、まともに立てない程ふらついた状態で、おまけにあの旧式拳銃では、銃口を額に付けない限り当たらないよ」
頭から血を流している太宰は話しながらAの元へ足を運んだ。
「会話で時間を稼いで彼の腕が疲れれば、後は織田作が何とかしてくれる…」
「辞めろ太宰、もういい」
太宰の会話に俯いて目を閉じる織田。
「大丈夫かい？悪かったねAちゃん」
涙を目に浮かべて壁に寄りかかって座り込んでいるA。
その身体は小さく震えていて、顔は青ざめていた。
太宰はAに手を差し伸べ、Aの小さな手はそれを握った。
『……あんなこと…しないでよ……』
小さな声でそう言ったAは太宰を軽く睨む。
「…大丈夫か？A」
織田もAを心配して、身体を支える。
「これ、飲んどけ」
織田は薬を取り出して、Aに飲ませた。
『ありがと、織田作』
ああ、と返事をして踵を返す織田。
「…織田作」
それを太宰が引留める。
「……安吾を頼む」
Aと同じ言葉が太宰の口から出たところで、決意を顕にした瞳で前を向いた織田。
「ああ…判ってる」
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
「歩ける？Aちゃん」
織田と別れた後、太宰はAと共に拠点へ戻る所だった。
Aは織田に貰った薬を服用して、少し落ち着いたようだ。
だが、先刻の太宰の行為をAが簡単に許す筈もなく、Aはぷいっとそっぽを向く。
「ほんとに済まなかったよ、織田作を吃驚させようかと…」
『前にも言ったでしょ！あんなのもう二度としないでって！約束を破ったのは太宰だからね！』
太宰にそう怒っているA。
『…本当に、死んじゃうかと思った……』
胸に手を当てて小声でそう呟くA。
その言葉を聞いて、嬉しくない訳が無い。
必然的に口角が上がった太宰。
「偶には可愛いこと言うじゃあないか、ほら、帰ろう？」
Aはまだ少し赤い目で太宰をキッと睨んだ後、太宰の手を握り、拠点へ向かって歩き出した。
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作者名：myu | 作成日時：2021年7月28日 23時
