恋するフリ始めました【1】 ページ1
「ねえAさん、俺に恋してみない?」
聞き心地が良い声と共に、
優しそうに笑うその瞳の奥に静かに炎が宿っている気がした_____
―――――――――――――――――
「今日の撮影は以上になりまーす!」
「ありがとうございました〜!」
本日分の撮影が終了し、スタッフさんはセットや機器を片付けたり次の撮影の打ち合わせをしていたり、私以外の俳優さんたちは撮影終わりで肩の力が抜けたように、各々で話したりしている。
私はというと急いで控室に戻ろうとしていた。
私は焦っていた。今日は何しろ今のドラマの撮影と並行して、撮影している映画の撮影もこの後控えていたからだ。
顔には出ないタイプだがとても焦っていた。今から移動を含めて撮影開始から2時間ほどしかないからだ。しかも映画の撮影場所には車で1時間、メイクも含めるともうほとんど猶予がないのだ。
今から控室戻って着替えてマネージャーさんの車に乗ってその間に台本読んで…あ、待って私携帯どこやったっけ?あ、今日はスケジュールがギリギリになりそうだったから、マネージャーさんに何かあったらいつでも連絡できるように持って入ったんだった。いつもは控室に置いてるから忘れそうになる。慣れないことをする上に急ぐため何か抜けているような気がしているが今はそんなのは構っていられない。
『お疲れ様でした』
横目でさっきまで一緒に撮影していた人たちにそれとなくいつも通りに挨拶しながら通り過ぎた。
「お疲れさんでしたー!また明後日ー!」
何人かかたまって話していた人たちがそれぞれ労いの言葉を返してくれる中で、人一倍元気な声が聞こえてきてどこか微笑んでしまった。
向井さん、と皆に呼ばれているその人は密かに私が想っている人だった。
私がこんなふうに想っているってことはもちろん誰も知らないし、言うわけもない。
向井さんは今をときめくアイドルグループの1人で私は俳優。
しっかりそこは弁えないといけないことはわかる。
だからこそこの撮影が楽しみだし、もう少し話せたらいいな〜なんて思うけれどいかんせんこの私の元々の性格が邪魔をしてしまう。まぁそうじゃなくてもこの一共演者ぐらいの距離がちょうど良いのかもしれない
それくらいで良かったのに。
まさかこの後から私の人生があっという間に変わってしまうことを
この時の私は知らなかった。
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作者名:ta | 作成日時:2021年10月24日 22時